短編

□この世はかくも
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諸君、この世は生きづらいと思わないか。

前方後方左方右方どこを見ても着飾った制服に身を包む自称乙女の集団。手に物つかずではいられない性分なのか、長方形のくだらない情報機器に雁字搦めにされている。それがなければ人間関係すら築けないというが、一丁前に二酸化炭素は放出し、日々環境汚染に勤しむ汚染物。汚染人間とでも名付けようか。

貴様らのような下劣な人間どもには一生を委ねても理解を得られるはずはない。それならば、一時すら割くのは惜しい。そう思うだろう。

自己紹介が遅れたが、かく言う私も世間的には女子高生、九十八パーセントの娘の必須経験である肩書を引っ下げているわけだ。ああ、注釈が必要であった。この数値は日本人に限るものである。

年齢の箱に詰められた共通項もない雑多な十代後半女性に社会的地位をつけるとは、いささか疑問である。こんなもの四万十川に投げ捨てられたらどれほどいいものか。

そのくせ、女子大生という言葉以降からこの歴史は跡形もなく途絶えているのだから、若さとは人類の渇望する実にくだらない青い春であることがわかる。これも日本人に限るが。

私はその青い春やら実体のない人生一時へ周りを気にせず黒焦げに身を焼こうとは思えない。

永久に消費側として関わることはないであろう小さな企業への心身投資と引き換えにオアシスのような少ない札と銭をすする生活がこの先には待ち受けているのだ。その時にどう燃料を補給するのか計画性もなく、同年期からの羨望で軽い頭とともに空へ昇っていき「リア充」気取りの人間にはほとほと頭が下がる。なぜなら私の頭には重く脳ミソが凝縮されていると信じているからだ。

諸君、この世は生きづらいと思わないか。

人類の生きる道には衣食住、これが欠乏欲求として必要である。そのためには金がいる。とにかく金なのだ。しかし、下劣な汚染人間にはその真理が見えていない。見えているのは愛だとか友情だとかだ。はなはだメルヘンチックな花畑でコウノトリよろしく生まれたヒトの成り損ないにすぎない。同じ生物分類であることに髪を掻き毟りたくなる。

しかし、私は顔も名前も覚えるほど価値のないある男に言われたのだ。

「キミは、悲しい人間だね」

その言葉には眥裂髪指もいいところ、私は心底腹を立てた。何を言っているのか、もはや日本語に属する言語なのか、それすら考えがたい。

「まるで昔の僕を見ているようだよ」

偉そうなこの男、私を貴様のような下劣の成長過程に置くという暴挙にまで至ったのだ。まさに井の中の蛙、蛙の胃の中の虫ケラである。貴様の曇りに曇った目では人類の真価が見えるはずもない。せいぜい、両生類やら爬虫類やらの体内で世界を眺めているがいい。

そう返してやったが、男は人語を理解していないのか私を野球とやらに引き込もうとした。球遊びに過ぎない、そんなものに時間をかけて何が生まれるのか。暇つぶしにもならない。

私はこんな娯楽が溢れた俗世を生きる崇高な人類である。未来を切り拓くという意義をいかに解釈し、遂行していくか。私の人生において大切なのはそれだけだ。自身のホメオスタシスいわば恒常性を貫ければ私の幸福でありヒトの未来なのだ。

貴様にはわからぬだろう。

「夢中になったことがないんだね」

「自分の意志の使い方がわかってないんだ」

「キミはもっといい生き方ができる」

自称高みの見物ついでに寝言をほざく男。私は内臓が震え、かつてないほどに憤激した。

「そんなに言うのなら、見せてみろ」

人間の喜怒哀楽とは短絡的かつ不安定だ。情緒不安定などという造語があるくらいなのだから、私にもその弱点が存在している認識はある。結果、売られた喧嘩をタダで買うような見事に頭の弱いチンピラらしいことをしてしまったのだ。

彼は長い髪を揺らして、不敵に微笑んだ。刻み続ける時間に突如現れた赤い投石を吉とするか凶とするか、今の私には判断は難しい。この悶々と燃え盛る憤慨が消えてから考えようか。

やはり、この世は生きづらい。

経験のない業火に焼かれながら正とも負とも取れる名のない感情、芽を生やしてしまったそれを育てる義務が私に放られてしまったのだ。
 

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