番外編

□届け、きもち
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都会にいた私は、なにも感じなかった。気づかなかったのだ。夜、見たいものもなく、ぼんやりとバラエティ番組を見ていた時のこと。突然、画面がニュース番組に切り替わった。地震、震度7。雷鳴のように身体が波打った。頭をよぎったのは、ここよりずっと震源の近くに住んでいる家族。携帯を取り出し、指の震えをそのままに、番号を打ち込んだ。

「もしもし……」

「お、お母さん! 地震があったみたいだけど、大丈夫!?」

「百合香、安心しなさい。家のものはたくさん落ちてきたけれど、倒壊はしていないから、みんな無事よ」

自分で思っていたより、よほどあせっていたらしい。耳元から聞こえてきた母親の肉声がこんなにも、こころをおだやかにしてくれるなんて。ひとまずは、よかった、と息をつくものの、すぐに手を口元に当てた。被災地の人は、被害を受けているはずなんだ。

後日、学校でもその話はもちきりで。「東野さんって、地方出身だったよね。実家は無事?」といろんな人に心配された。中には、復興イベントを立ち上げる話し合いをしているグループもいたりと、みんな、やさしい人たち。
部活が始まっても、それは変わらない。寮があるここパワフル高校野球部は、私みたいな地方出身の人も珍しくない。監督は、練習の合間に被災地付近に実家を持つ生徒をひとりひとり呼び出していた。それは、私も例外ではなく、監督と机を挟んで対面する部室の中。

「東野、答えたくなければ答えなくていいからな。お前の地域はどうだった」

「はい、大丈夫だと母が言ってました。……ただ、家の中の物がたくさん落ちてくるほどには揺れたらしいです」

「そうか……。どうする、帰省をしたいのであれば、俺が顧問として責任持って申請するが」

「いえ、大丈夫です。家族とも電話がつながりますし……お気遣い、ありがとうございます」

監督に頭を下げて、部室を出るとランニングをしていた友沢くんに出会って。出てきた場所が場所だからか、彼はその意味を察知して、険しくまゆを据わらせた。

「……ご家族は無事なのか?」

「うん、うちは少し距離があるから、みんな大丈夫だって。心配してくれてありがとう」

ほほえんで見せたけれど、彼は汗を拭いながらも表情がかたい。家族をとても大切にする友沢くんのことだから、私を心配してくれているのだろう。それより、地元の人の方が大変なんだから。そう言っても、目は細いまま。私の髪をひとなですると、ランニングに戻っていってしまった。
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