番外編

□気づけば夢中
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ぱくり。クッキーをひとつ口に放る。

泣いた顔、初めて見たな。子どもみたいにおろおろしながら泣く様は、不謹慎ながらかわいいと思ったし、きらいと言いながらもクッキーをくれた東野、その優しさも東野のものだった。

さっき、いつもは大人びた顔をぐっと歪めて頬を濡らす東野に、自然と手が伸びていた。危なかった。脳が止まれと言ってなければ、どうなっていたのか。もう、それほど。止まらないほど、東野のことが好きになってしまった。

いつからかは、わからない。だが、あの時、バイト中。東野は偵察報告をまとめていて、帰宅が遅かったのだから、彼女の方が疲れているというのに、俺の身体を気遣ってくれた。送っていく、なんてらしくない言葉を吐いて、彼女の強さじゃない、やさしさを知った。
今思えば、その時から惹かれていたのだろう。

そして、猪狩さんが東野を腕に閉じ込めたこと。あの時、不快だった気持ちは嫉妬していたわけか。……付き合ってもないのに、身勝手なものだ。

ぽい。もうひとつ、クッキーを食べる。

そういえば、今日の東野、かわいかったな。……橘と一緒だからか。どうやら、俺のライバルは猪狩さんより、橘らしい。

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