番外編

□僕の方だった
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東野の押しに負け、彼女を自室に通させてからシャワーを浴びてきたのはいいが、戻ってくればそこにそいつはいなかった。ただ、テーブルの上に綺麗に畳んであるパーカーと手紙が置いてあって。東野の丁寧な字で綴られていたのはさっきのことだった。
今日、僕が彼女を呼んだことへの感謝、プロ野球の試合を見たことの感想、練習の労り、そして。

「……どうして、キミが謝るんだか」

さっきは、ごめんなさい。
明日からは、また教室や部活でよろしくね。

文面を指でなぞる。わかってたよ、あの時、押し返した時の表情で。東野は、僕だから押し返した。……もしも、あの時、僕じゃなくて友沢が同じことをしていたら。僕以外、見なくていい。朝、彼女に伝えた言葉を、友沢が言ったなら。白い頬を赤く染めていたのだろうか。
考えて、苦しくなる。情けないよね。たったひとりの女相手にここまで。しかも、好きな人がいて、あいつもおそらく彼女が好きで。

でも、文化祭での友沢が許せなかった。僕なら、彼女をひとり置いて行ったりしない。僕なら、僕なら。

どうしたら、手に入る。
どうしたら、こっちを見る。

叶うはず、ないのに。
あいつと同じフィールドに立っている、わけがないのに。

それでも、東野は馬鹿だから。こうして、手紙を残して僕に居場所を与える。チャンスを与える。しかし、優しく笑顔を見せてくれるのに、捕まえようとしても絶対に捕まらない。

本当に馬鹿なのは、どっちだろうね。

気づけば、手紙に点々と染みができていて。綴られた僕の名前が滲んだ。

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