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□オオカミ少女たちの冬眠
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 木枯らしが鳴いているのを、名前ちゃんと身を寄せて見ていた。冷え切った風が二枚の窓を隔てた向こう側で雪を散らしている。
「寒いね」
「だねえ」
「これじゃあ野球、できないや」
 ため息をつく名前ちゃん、可愛いでしょう。彼女と一緒に寄り添っていられるのは、ひとえに私自身のおかげ。おんなじ女の子同士じゃなければ、ここまでくっつくことなんてできやしない。
 私は名前ちゃんが好き。女の子として、だ。私だって女の子だから、こんな感情はおかしいってこと、よくわかっている。でも、セカンドを守る彼女と絆を深め合ううちに、仲間とは少し違う芽が出てしまった。
「守備練習したいなあ。ね、リョウちん」
「うん、私と名前ちゃんのナイスコンビネーションを見せられるのにー!」
「ふふ、そうだね」
 元気が取り柄の私でも、この気持ちばっかりは元気だけでどうこうできるものじゃない。いっそのこと、男の子だったら良かったのに。そう思っちゃうのは、どうしようもないことなんだ。この寄り添う距離が心の距離だったらいいのに。私が私自身だから、ここまで近づけるのに野球部に唯一いる男の子のようにはなれない。私は彼女にとって、ただの相棒だ。二遊間の。
 名前ちゃんが私の肩に頭を置いた。私はそれを撫でる。柔らかい髪は、チカちゃんやハッチ、セッちゃんにもあるはずなのに、彼女のものは私の鼓動を大きく鳴らしてみせるんだ。
 野球から始まった彼女への異常な想い。野球さえなければ、私はこんなことで悩むこともなかったのかな。
「名前ちゃん」
「うん?」
「私たち、最強の二遊間だよね。最強のパートナーだよね!」
「……うんっ」
 確かめるように呟けば、彼女は眉を下げて笑った。
「野球がなければ、リョウちんとこんな関係になってなかったね」
「ほんと、だね!」
「野球に感謝しなきゃ」
 名前ちゃんがゆっくりと吐く声はこの季節のようにひんやりとしていた。柔らかい口調の彼女がなぜ、そう思う間もなく、野球に感謝しなきゃなあと心で復唱するの。
 冬は野球ができない。だから、なによりも分厚い私たちの絆、ショートの襷を今だけは外せる。名前ちゃんにパートナーとしてじゃない、また別の意味を持って寄り添える時間。冬がずっと続けばいいなあ。そう呟けば、真っ向から嫌だよと言いそうな彼女はそうだねと下がり眉のまま。私の心はもうひとり、知らない人が住んでいる。

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