一日一アプリ

□無責任少女
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「美々ちゃん」
「ムッ、名前さん」
「今日こそ! 一生に一度のお願い!」
「ダメであります! 絶対に絶対にダメであります!」
 日常茶飯事どころか朝昼晩ごはん欠かさずにする会話、こんなものはもう何万回としてきたことかな。両手足じゃ数え切れないから、アタシは随分と前から指折りを諦めている。
「えーっ、まだダメなの?」
「これからもダメであります」
「どうして! ケチ!」
「ケチでもなんでもいいであります」
 高校生活を始めてから、ずっと一緒にいる美々ちゃんは実験のナントカってことで素顔をいつも隠している。けれど、アタシは知っている。美々ちゃんがきっと可愛い女の子だってこと。彼女と話す時のレンズ越しの視線というか、なんというか、勘よ! 勘!
 とにかく、彼女は絶対に可愛いはずなのに、頑なにその、なんだっけ。ああ、ゴーグルだ。ゴーグルを取ろうとはしない。もったいないなあ、女の子なのに。べ、別にアタシが見たいからとか思っていないんだからね。
 美々ちゃんの女の子としての魅力を引き出すためにここまで奮闘してきたけれど、どうも脳筋策では上手くいかないらしい。どうしたらいいのだろう。彼女の顔をじっと眺める。うん、絶対にそのキカイは邪魔だ。
「美々ちゃん。それ、無い方が可愛いよ?」
「か、かわ……!? そんなことないでありますよ!」あれ? これは効果的のようだ。
「可愛いって! どんな男の子もイチコロなくらい!」
「い、イチコロ……」
「たとえば、野球部の人とか!」
 それならおまかせ、とアタシの口は本当によく暴れ回った。えらいぞと誉めてやりたいくらいに。後でこの子に似合うグロスでも買ってやろうかな。
 美々ちゃんの顔はみるみる赤くなっていく。この反応、どうやらイチコロにしたい人でもいるのだろうか。しかも野球部に。それを見抜いてしまえばこっちのもの。嫌でも出てしまう悪い笑みにアタシはすべて託してしまった。
「ねえ、美々ちゃん。男の子はギャップに弱いんだよ」
「ギャップ……でありますか」
「そうそう! 美々ちゃんのお顔で狙い打ちだよ!」
「ねら……それでもダメであります!」
「くっ、バレたか」
 しかし、彼女はアタシの手の内に気付いてそっぽを向いてしまった。もう少しだったのに。まだまだそのゴーグルは彼女の顔から離れそうになくて、アタシはまた作戦を練り直すんだ。

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