一日一アプリ

□立派な蔓を受け取って
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「識ちゃん! 助けてえ!」
「もう、今回はなに!?」
「うわあん、筆箱忘れちゃったよお!」
「はあ……さっきの教室移動で置いてきたのね。私も着いていくから早く行くわよ」
「違うの、家に筆箱忘れたあ!」
「そっち!?」
 クラスでも不名誉なことに有名な私は自他共に認める間抜け娘です。学校に鞄を持っていかなかったり、体操着の代わりにパジャマを持ってきてしまったり。これまで作り上げてきた伝説は数知れません。
 そんな私はいつも識ちゃんに助けられます。しっかり者の彼女は、私になんて手を焼いてもなにも生まれないのに、呆れ顔で毎回手を差しのべてくれる優しい人です。今は手ではなくペンと消しゴムを差しのべてくれていますが。
「ありがとう、識ちゃんーっ」
「もう、名前はひとりで生きていけないの?」
「いけないかも……」
「…………」
 だから、そんな彼女に何かを返せたらと思うのです。普段もらってばかりだから、たまには天変地異があってもいいんじゃないかなと。私は最近、学校に行っては休み時間にノートを広げています。その名も、識ちゃんお姫様計画。彼女と放課後に私がプロデュースしたデートを楽しんでもらおうという魂胆です。もちろん、王子様役の私がプランナー、の、はずだったのですが。
「名前、これなに」
 なんと、間抜けにも程があるでしょう。熱中していた私は、彼女が私の席へ近づいてくることですら蚊帳の外だったのです。案の定、識ちゃんは目を据わらせています。
「えっ、と、あの……こ、これは……」
 乾いた笑いで流せるような小川ではありません。すけすけゴーグルたるものがこの世にあろうとも彼女の瞳には敵わないのですから。
「し、識ちゃんと、お出かけしようと思って……」結果、私は白状しました。
「お出かけ?」
「いつも迷惑かけてるから、その、たまには私が識ちゃんを驚かせてあげたいの」
 識ちゃんは私を見て、いよいよ据わらせていた瞳を閉じました。出てきたのは重いため息。怒らせてしまったかな、私はまたやってしまったかと構えたけれど、彼女はその息を皮切りに微笑んだ。
「……バカね。そんな気、遣わなくていいのよ」
「えっ」
「私は名前が迷惑だと思ったことはないんだから」
 そして、私の頭をそっと撫でる。優しい手つきだった。識ちゃんは怒ってなどいない。いつもみたいに、私に手を差し出してくれたのです。
 彼女に言われたことが頭の中で響き合う。私、今のままでもいいのかな。識ちゃんといつもみたいに過ごしていいのかな。彼女は何も呟かない私のことなどお見通しだった。
「それに、名前ひとりが立てた計画なんて危なっかしい! さ、一緒に考えるわよ」
「……うん!」

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