一日一アプリ

□顔の皮が厚ければよかった
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「ねえ、名前は誰がタイプ?」
「絶対二宮くん!」
「チャラそうな人、好きだよねえ」
「ええ、だってかっこいいじゃん」
「うーん、私は真面目系がいいからなあ。四条くんみたいな」
 もう何度と聞いてきた女子の会話、野球部の誰が好きなのかという年頃の女の子にとっては当たり前ともいえる話題だ。しかし、僕はその話を聞きたくはなかった。なぜなら、僕の好きな彼女は、僕とまるで異なるタイプの男の人が好きだからだ。
 彼女は名字さん、短絡的なことながら僕にとってその人は憧れであった。クラスでも万年トップを手に入れる学力の持ち主だけれど、裏側は日々放課後の図書室で人知れずペンを握っている努力家。名字さんの名前が飛び出そうものなら次には「名前は頭いいよね、羨ましい」と口を揃えられる彼女は二枚目の顔を誰にも知られていないのだろう。
 僕はそんな能ある彼女を素直に尊敬している。人として。それがいつしか恋へと見た目も中身も成熟したのは最早いつのことだったか覚えていない。目で追うようになったのは、僕の範疇外の出来事だったのだから。
「六本木、どうした。意気消沈といったところだな」
「四条……うん、大丈夫だよ。心配しないで」
 僕のもとへ歩み寄ってきた四条にだって、こんな浮ついた気持ちを知られるわけにはいかない。僕は笑顔を作る。メガネの奥でどう思われているのかわからないけれど、彼は静かに頷いて言及は控えてくれた。
 もしも僕が二宮のようになれたら、そうすれば、彼女は僕に熱視線を送ってくれたのだろうか。僕が彼女に話しかければ今と違った反応があったのだろうか。ただのクラスメイト、誰しもが手にできる称号から進歩できたのだろうか。
 四条が僕の目を追わない。それをいいことに彼女を見つめる。机何個分かの距離は未だに縮もうとはしていなかった。頬を染めて二宮のことを話す名字さんが、僕のことだけを考えてくれたならどんなにいいだろう。叶う努力もせずに、僕は溜息を吐き捨てるばかりだ。

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