一日一アプリ

□英雄は与えるばかりか
1ページ/1ページ

 オレのライバル、三本松は無尽蔵の筋力を誇る男の中の男。彼を尊敬している反面、負けたくはない。タイプは異なるんだけどね。おそらく、三本松も同じことを考えていると思うよ。目指す先は違えど、気持ちは同じってヤツだ。でも、ここまでオレと競い合える大男にキュートなおチビちゃんがいるとは想像もできないだろ?
「七井さんだ!」
「ホワッツ!?」
「私、三本松名前って言うの」
「オーマイガッ! 三本松のシスター!?」
「いえす、しすたーだよ!」
 衝撃的な出会いを果たした三本松の妹、名前はブラザーと異なるクリクリの瞳、短い髪、とにかくどこからどう見ても血の繋がりを疑うような少女だった。アンビリバボーだね、突然変異もいいところさ。しかし、彼女は性格も三本松とは異なるようで、朗らかで愛らしい姿はオレまで彼女を第二の妹だと錯覚させた。
 オレたちの腹くらいしかない名前は三本松が大好きだ。そのうえ、三本松も名前にすこぶる甘いときたのだから、彼らの兄妹愛は見ていて穏やかな気持ちになる。そんなものを見せつけられちゃ、オレも優しい構図に混ざりたくなっちゃってもしかたないよね。だから、名前に三本松の話をたくさんしたんだ。
「お兄ちゃんってかっこいいんだ!」
「かっこよさならオレの方が上だけどネ!」
「ええ、七井さんよりお兄ちゃんだもん」
「名前は本当に三本松が好きなんだナ」
「うん、私のヒーローだもん!」
「ヒーロー……」
 その度、名前はニッパリと微笑んだ。しかし、その小ぶりな口から膨らんだワード、それはかつて、三本松にとってオレを示すものだったと聞いている。彼女の輝く笑顔は、そのヒーローからもらったものだとすれば……誰に見せようとしたわけでもない、ありのままのオレが巡り巡って彼女にまで何かを与えることができたというのかな。
 少女の混じり気のない瞳が弓なりに綻ぶこと、オレは目の当たりにした光景にくすぐったくなるのさ。
「名前、知ってル?」
「なあに?」
「子供の頃、オレ、三本松のヒーローだったんだよネ!」名前はパチクリと瞬いた。
「……うっそだ! お兄ちゃんの方が身体も大きいもん!」
「昔はオレの方が大きかったんダ!」
「七井さん、うそつきはドロボウの始まりだよ!」
「ドロボウじゃないヨー!」
 三本松があの時、オレを目標にしてくれて本当に良かった。なぜだかわからないけれど、オレは不意にそう思ったんだ。そして願った。いつまでも、名前に夢を与える男であって欲しいと。オレもその手伝いがしたいと。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ