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□どうか私の中で永遠を
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 彼女は、クラスメイトでした。この学校では珍しい、血色のいい肌を惜しげなく晒す女の子だったのです。見た目も中身も普通の人間、もちろんその正体も一般の女子高生でした。だから、彼女の素朴な疑問は私にとって新鮮なものなのです。よく私に聞いてきました。どうして鎧を着ているのか、と。どうして太陽が苦手なのか、と。どうして人間は寿命があるのか、と。
 寿命などあってないような私にとっては、想像することも躊躇われる美しい話だと思いました。散りゆく者が最後の命の灯火を燃やし、清らかに散ってゆく。その残された亡骸には何も残っていないはずですが、いつまでも永遠に誰かの記憶の中で生き続ける。真の死は誰からも忘れ去られた時だと、綺麗な思い出の深淵でいつまでも微笑み続けていられるのです。
 私はずっと生き続けます。今、共にヴァンプ高校に通っている人たちが亡くなっても、そのお子さんやお孫さんが年老いて朽ちても、私は生き続けます。その様々な死の中で、真の死を恐れながら人は消えていくのでしょう。
 目の前の真っ白なベッドに横たわる彼女は、無機質な私に笑いかけました。頬は柔らかく、髪も艷やかです。ただ、彼女には何本も管が繋がっていました。それだけ、たったそれだけが女子高生らしかぬところでした。私にとっては、取るに足らない問題でした。
「明瑠ちゃん、私ね」
「はい」
「明瑠ちゃんに会えて、嬉しかったな」
「……そうですか」
「うん、楽しかった。ありがとう」
「……そう、ですか」
「明瑠ちゃん」
「はい」
「呼んだ、だけ」
「……はい」
「明瑠ちゃん」
「はい」
「明瑠、ちゃん」
「は、い」
「大好き。……さようなら」
 彼女は最後の最後、必死に生命の全てを燃やしました。私の名前を、この上なく美しい声、美しい顔で呼んで、冷たくなっていきました。私は、彼女の儚い命に恋をしました。これほどまでに綺麗なものが、この世にあったのです。
 ふたりしかいない白の世界で彼女の手に触れました。悲しいほど瑞々しくて柔らかくて、人間らしい手です。人間とは、どうして寿命があるのでしょう。どうしてここまで悲しいのでしょう。鎧を纏った私には、どこまでも、いつまでもわかりませんでした。

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