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□はぐれ者の捻れ恋
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 私の大切な人、虹谷誠はプロ野球からも注目を集める超高校生級右腕。彼の投げる変化球は七色を自在にすると評判も高かった。しかし、彼が指先で操るのはボールだけではなかった。
 たまの休みくらいはと彼を誘ったのは甘味処。いわばスイーツ専門店。甘いものに対してあまりイメージのない彼だけれど、誰しも舌の天国には勝てないようで、大手を挙げて同行を賛同した、のはいいの。
 しかし、彼は店に入るとスイーツではなく、女の子に首ったけなのだ。そこの彼女はスミレのような愛らしさだとか、あちらの女性は白百合のような儚さだとか……私からすれば知ったことではない。
 そのうえ、眺めるだけでは足りなくなったのか声までかける始末。これが、不審者だと女の子たちがみな逃げていったならばどれほど良かったことでしょう。不幸なことに顔立ちの整っている彼のこと、下心が見え透いたセンスのないナンパにひっかかってしまう女の子たちがいるのだ。現に、私の隣には誰もいない。視線の先には女の子を侍らせる誠がいるってわけ。こらこら、鼻の下が伸びているぞ。
 彼と付き合った時から覚悟はしていたけれど、これはいかがなものか。すっかり独り身の私は、彼に激怒する余力も残ってはいない。むしろ、こんなことで怒っていたらこちらの身がもたないほど彼の女性癖は激しいのです。
「ねえ、行くよ」私の声はもはやため息に消えそう。
「ああ、今行くさ。それじゃあね、キミのように甘いスイーツを楽しんでおくれよ」
 だと、思った? なあにがキミのように甘いスイーツだか。ああ、いいえ、そっちじゃない。猫をかぶるのはやめましょう。なにが激怒する余力よ。私はこの瞬間がたまらなく好きなんじゃないの。
 彼はなんだかんだ私の元へ帰ってくること、それは真理。覆るなんて考えは非常識に値する。実は太陽が地球の周りを回っていたとしても、これは変わらない。よもや彼女などいないだろうと思ったわよね。驚いた顔をする女の子には悪いけれど、付き合っているのよ。
 彼と付き合っていることを話すと、皆口を揃えて「大変そう」と言う。滅相もない。むしろ、彼を後ろ髪で引く自分に惚れ惚れするくらいだ。彼を狙う女の子はたくさんいるし、たくさんの女の子を狙う彼もまたいる。しかし、その関係図が成り立つことはないの。私がいるから、ね。誰もが疑わずして流れる大河に一石で道を防げたとしたら、やってみたいものでしょう。
 私の隣へ戻ってきた彼が長い髪をかき上げた。その下ろした腕に抱きつくと、誠は緩く微笑むのだ。
「誠、大好きだよ」
「フフ、僕もだよ」
 まさしく恋人のように寄り添って、愛を吐く相手は私しかいない。デコボコ同士がピッタリはまり合う偶然、奇跡。きっと、彼と一緒にいられるのは私しかいないのよね。

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