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□溺れる魚(跡蔵)
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「……」
その日、白石は機嫌が悪かった。
ベッドで睦み合っているときも、あえぐ声以外は終始口数が少ない。
その理由に、跡部は気づいていた。
「見てたのか」
妹のゆかり────跡部の彼女とキスしているところを。
「……」
髪を掻き上げて黙り込む白石のクセが、それを物語っていた。
白石は不機嫌なとき、髪を掻き上げるクセがある。
「…もっと濃いキスしようぜ」
だから、跡部は。
愛しげに白石をあやす。
「あいつからねだったん?」
────妹のほうから? 可愛くおねだりを?
悔しげに白石が口を開くのを、跡部は少し笑って見ていた。
完全なヤキモチだ。
それが跡部には嬉しかった。
本当は跡部がゆかりのキスに応えたのは、白石に妬かせるためだった。
白石があまりにも、忍足の従兄弟の話を楽しそうにするものだから。
ちょっとしたスパイスだ。