しちゃいました

□せんぱい
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「おはようございます」

「ん、名無しちゃんおはよ」


私の好きな人は1つ上の山本彩さん。

中学の時に恋に落ちて、先輩の高校に行きたくて、普段使わへん頭を死ぬほど使ってやっと入学できたのが1年前の春

学校のひとつ手前の角で毎日のように会うけど、偶然装って待ち伏せしとるのは内緒。


「名無しちゃん、寒ないん?」

「え?」

「いつもマフラーしとるよな」

「あー今日忘れたんですよ」

「手袋もしてへんやん」

「へへ、忘れました」


時間ギリギリで家出たから忘れたんよな…

さすがにマフラーも手袋もないと寒いけど、先輩に会えるなら我慢できるで


「はい」

「ん?」

「カイロ。
少しはマシやろ?」

「でも、それやったら先輩が使われへん」

「あたしは大丈夫やから、ほら」


ずいっと差し出されたカイロをありがたく受け取った


「ありがとうございます」

「ええって
ほな行こか」

「はい!」


朝のこの幸せな10分のためだけに学校通っとるようなもんや。

いや、ちゃんとクラスに友達おるで?


「さやかちゃん!」

「おーおはよ」

「今日も寒いなぁ」


2年と3年は昇降口がちゃうからそこまで一緒やけど、昇降口に入っていった彩先輩に話しかけるマフラーが似合っとるみるきー先輩。

私のボブと違って髪の毛ロングで舞いとって、むっちゃ女の子らしい先輩


やっぱロングが好きなんやろーな…


「名無しおはよー」

「おはよ、」

「また見とる」

「あーさむっ」

「ちょっと、先行かんといてよ!」


同じクラスの愛梨ちゃんに話しかけられたけど、挨拶だけして教室に行った


「そーいえば、3年はそろそろ卒業やな」

「うん」


2ヶ月後には3年生が卒業ってことは彩先輩と会えんくなるんよな…


「なんか考えとるん?」

「いや、なにも」

「最後に気持ち伝えたりとかせーへんの?」

「うん」


4年間の片想いが終わるんやな…。

やからって気持ち伝えられるわけがない
そんな勇気があったらとっくに伝えとるし。


「手紙、書いたらいいやん」

「手紙?」

「うん
手紙書いて、卒業の日に彩先輩の靴箱にでも入れといたら?」

「手紙かぁ…」


確かに直接言うのは無理やけど、手紙ならなんとか渡せるかも。















それからあっという間に卒業式の日になった。


「先輩、おはようございます」

「おはよー」

「卒業式、ですね」

「やんなぁ
名無しちゃん、泣いてくれるん?」

「そりゃぁ泣きますよー」


もう先輩に会われへんって思ったら今すぐにでも泣きそうやもん。


「ほんま?嬉しいわぁ」

「最後、ですね」


いつの間にか、この時間が当たり前やったけど、それももう無くなるんや

制服姿の先輩が見れるのも今日で最後。


「ほんなら、」

「先輩!」

「ん?」

「今までありがとうございました」

「名無しちゃん」

「へへ、やってみたかったんです
仲良い先輩とか彩先輩しかおらへんから」

「ん、あたしこそありがとな」


私の好きな笑顔でぐしゃっと頭を撫でて昇降口に入っていった先輩。

この後ろ姿も今日で最後。


「名無しおはよ」

「愛梨ちゃん、おはよう」

「手紙、書いたん?」

「うん
もう少ししたら入れに行く」

「そっか
ほんなら先行っとくな」

「うん」


卒業式やから3年生はみんな早めに来とるからHR始まる15分前には3年の昇降口はだれもおらへんかった


「やまもと、さやか…」


3年の昇降口なんか来たことあらへんから、彩先輩の靴箱をさがして、私の精一杯の気持ちを書いた手紙を入れた


「先輩、さよなら。」


ずっとずっと好きでした。


-END-



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