しちゃいました
□木苺
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「一緒に暮らしたら、猫飼おうや!」
「あたし犬がええんやけど」
「子猫がいい」
「どっちも飼えばええやろ」
「うん!」
優しく笑ってくれて、繋いだ手を握り返してくれた
2人であーだこーだ言いながらよく通ったペットショップに来ても、あの時目をつけとった猫も犬も売れてしまっとる
「名無し」
「な、に…」
ほんまは猫も犬もいらへんから彩のそばにおれればいいって思っとった
私らの関係はずっと続くと思っとった
真剣な目で見てくる彩が怖くて、その先の言葉は聞きたくなかった
「嫌い!嫌いや!嫌い嫌い嫌い!彩なんか大嫌い!」
もうさよならや。
運命やと思っとったけど、彩の運命の人は他におった
気の利いた言葉を用意しといてくれたら溢れてくる涙も無駄にならへんかったのに
永遠を信じとった。
彩に一緒に住もっかって言うてもらえるの待っとった
「なんも食べてへんのやろ?外出て空気吸ったら楽になるで」
泣いて泣いて、洗濯も溜まっていって来とる連絡にも手を付けずにおると、心配した菜々ちゃんがメッセージを送ってきた
「っ、」
自分でもそろそろやばいと思って用意したけど、クローゼットから引っ張り出したワンピースは後ろのファスナーを自分で上げることが出来ずに、彩がおればって思い出してしまった
「菜々ちゃん、ごめん」
『どしたん?』
「行かれへんっ、むりやった…」
『そっか
ならまた行こーや』
菜々ちゃんは何も聞かずに電話を切ってくれた
何も聞いて欲しくなかった。
「辛いっ、辛い。辛い、辛い…」
声に出してもあの時にはもう戻れへん
気付いた時にはもう何度目かの朝が来て、涙で溺れそうになる
「助けてや…」
永遠を信じとった。
長いのが好きって言われて伸ばしとった髪も短くして、過去の事として流そうとした
思い返せば全部甘酸っぱい記憶で、彩とした会話は全て幸せそのもので。
もうさよならや。
私らは運命やなかった
今まで流した涙が無駄にならへんように、気の利いた言葉を用意しとって欲しかった
「幸せになりたい」
それだけなのに…
-END-