しちゃいました
□cicada
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蝉の五月蠅さで夏が来たんやなって実感する
いや、はやくから暑さで夏の実感はしとったけど、蝉が鳴き出して改めてある夏を実感した
「おそい。」
蝉の声に掻き消されて誰にも届いてへんであろう独り言を呟く
久しぶりの休みでいつもより遅く起きてテレビを見ながらどう過ごそうか考えとると他の人とは違う着信音で呼び出された
「さやかぁ!久しぶりー!!」
「ん、久しぶり」
遅いって文句でも言ってやろうかって考えとったのにあたしを見つけた瞬間笑顔で駆け寄ってきたのを見ると文句なんか出てこず、代わりに愛しさが溢れてきた
「ごめん、待ったよな?」
「大丈夫」
「冷たいものでも食べに行こ!」
あたしの腕に自分の腕を絡めた名無しは1人で散歩したときに見つけたいいお店があんねんって楽しそうに話しながら歩いた
暑いのに、絡められた腕を離して欲しくなくてじんわりと汗をかいとるのに気づかへんふりをして笑顔で話す名無しに相槌を打つ
この子があたしの恋人ならどんだけ幸せなことか…
「川、行っとったな」
この時期にぴったりな大きいかき氷がお互いの目の前に置かれて、さっきまではしゃいで写真撮っとった名無しはかき氷を食べながら言ってきた
「せやねん
楽しかったで」
「別に私やってあの日楽しかったもん」
「美優紀と花火したんやろ」
「なんで知ってるん」
「美優紀から写真付きでLINE来たで」
花火するだけやのに律儀に浴衣まで着て、花火ではしゃいどる写真は保存しろって事やんなって自己解決で保存したの内緒
「やから彩とも花火したいんやけど」
「ええよ、しようや」
「ええの?」
「あたしも名無しと花火したいし」
「ならいつする?次のお休みいつ?」
「テンション上がりすぎやろ」
「美優紀が積極的に行けって言っててん」
美優紀、、?
名無しって美優紀って呼んどったっけ
こないだ会った時はみるきーって呼んどったよな?
花火の日に美優紀と何かあった?
もしかして浴衣着てまで美優紀と花火するってことは美優紀と付き合ったか、美優紀のこと好きってことやんな…
あたしと2人でしたいんやなくて、美優紀と3人でしたいってことやったんか。
危なかったな。
「さやか、?」
「日にちはまた美優紀と相談して決めようや」
「ぁ、うん、やんな…
まおきゅんとなるも誘おうか」
「2人にはあたしが声掛けとくで」
「うん」
一気に気まずくなって残っとったかき氷を一気に口の中に詰め込んだ
「今日はありがとうな
彩と行きたかったから来てくれて嬉しかった」
「あたしも名無しに会えてよかった」
お店を出ると相変わらず五月蝿い蝉の鳴き声を浴びながら作り笑いで言う名無しの頭を撫でながら答えた
「あのさ」
「ん?」
「彩と2人で花火したい…」
「ぇ、?」
蝉の声に掻き消されそうな声で言う名無し
「美優紀とまおきゅんとなると5人でもしたいけど、彩と2人っきりで花火がしたい」
「なん、で?」
「彩のこと好き、やから」
照れた顔の名無しがこぼした言葉はさっきまで蝉の声しか聞こえてへんかったのに、ストレートに耳に入ってきた。
-END-