恋を2

□目を見て
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「あたしはさやかちゃんのわらっとるかお、すきやからずっとわらっとってな?」


小さい頃、隣の家の子に言われた一言

高2になった今もその子の一言が忘れられへんくて、ずっと笑顔でおる
…例えその子に見えてへんくても


「なぁ、彩ー」

「なんやねん」

「今日こそ合コン来てや」

「それだけは岸野のお願いでも聞けへん」

「人助けだと思ってさ、お願い」


目の前で深々と頭を下げる岸野


「そこまでされても行かへんものは行かへん」

「菜々ちゃんも他の子と遊びたいんやないん?」

「…山田には、あたしがおらんとあかんねん」

「菜々ちゃんにも菜々ちゃんの世界があるやん
別に彩がおらんでも…」


山田にも山田の世界がある。
それはある意味間違ってへん
けど、それはあたしのせいでもあんねん。
岸野たちは山田の顔と名前しか知らんから知らんけど、あたしが山田を守る本当の理由は…

















「山田、大丈夫?」

「彩、今日も来てくれたん?」

「まぁ…」

「なんでそんな顔するん?」

「そんな顔って?」

「申し訳ない。みたいな
私、昔言ったやん
彩の笑った顔が好きやねんで?」

「山田にはわかるか…」

「わかるよ。何年一緒におると思ってんねん」


へらーって笑ってみせる山田やけど、ホンマは恐怖にかられてると思う。


「山田にはかなわんな笑」

「私には彩の顔はちゃんと見えとるで?」

「ん、せやな」


山田は中学校を卒業してから光が消えた。
交通事故で脳の視覚神経が傷ついて失明した。

あたしがあの日、山田を連れて行かんかったら山田はこんなことにならへんかった。
あたしが山田から光を奪ってしまった。


「彩?」

「ごめん。」

「さーやーかー!」

「ん」

「私、彩のこと恨んでも怒ってもないで?」

「けど、あたしのせいで…」

「彩のせいやないで?」

「けど、山田が…」

「けどやない!
彩が今笑ってへんと私悲しいで?」

「笑っても山田に届かへん。」

「彩…」

「あたしがいくら笑っても山田は見てくれんやん」

「私、ちゃんと見えとるで?
彩の笑顔も怒った顔も全部」


山田は大人だ。
あたしは過去をズルズルと引きずっとる臆病者。


「彩のせいやない。
やからこーやって毎日来んでえーねんで?
彩は彩の世界があるんやから
私、彩の邪魔になるのは嫌や」


あたしは山田が失明してからこーやって毎日山田の家に来とった
それは山田への罪悪感とあたしだけが楽しんどったらあかんって気持ちがあったから


「あたしは…」

「私、引っ越すねん」

「え、」

「いつまでも彩のお荷物でおりたくないねん
私がおる限り彩はここに来るやろ?
やから、遠くに引っ越す」


山田があたしのお荷物…?

「やから、彩もぉ来たらあかんで?」

「いつ」

「え?」

「いつ引っ越すん」

「…明日の朝」

「それって、今日が最後ってことやんな…?」

「せやで」

「やま、だ…」

「彩、お友達は大事にせんとやで?」

「山田がおらんかったらあたしはどーしたら…」

「やーかーらー
お友達と笑ってや?」


彩の笑った顔好きやって言ったやろ?って微笑むからあたしは何も言えへんかった
なにも言わせてもらえへんかった


「彩、ちゃんと幸せになるんやで?」

「あたしだけはあかんねん!!」


玄関のドアを閉める山田に叫びかけた
あたしはどーしたらえーねん。
山田がおらんくなったらあたしの罪滅ぼしは…
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