第二章

□21.雨との接触
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「裕巳、遅いですね。」




その部屋の沈黙はカブトの何気ない一言で破れた




大蛇丸はフン、と小さく鼻を鳴らした後答える




「自分の故郷なのよ、あの子にとって雨隠れは…遅くもなるでしょう。」




「厄介な事に巻き込まれてなければ良いのですが…。」





「厄介な事…?」




眉を潜める大蛇丸にカブトは眼鏡をかけ直してから説明する




「大蛇丸様もご存知でしょう。雨隠れの里は入国困難な隠れ里…。
あの時は滝隠れの混乱があったので幸いにも雨隠れに見つかりませんでしたが、今行くとなれば…状況は変わっている筈…。」




慎重な物言いに大蛇丸は片手の手のひらを持ち上げながら言う




「そんなことは私達よりも裕巳が一番分かっているわ。」





「だと…良いのですが。」




「何か気になることでも?」





「『気になること』…それは情報が揃って初めて浮かび上がる疑問です。
僕達は…裕巳のことを知らな過ぎる。」




「確かに…あの子、自分のことは話したがらなかったわね…。」





「裕巳があの里で何をしていたのか、どんな役職に就いていたのか…何故、滝隠れの襲撃を受けた後だとしても我々の元に居るのかさえ…。」




「カブト…何か心当たりがあるのならはっきり言いなさい。」





大蛇丸がそう言うとカブトは昔の記憶を呼び起こす




「僕がまだ大蛇丸様の元に付く前…僕は鉄壁の要塞とも呼ばれたあの雨隠れにスパイとして潜り込んだことがあります。」




「…それは初耳ね。にしても良くあんなところに入り込めたわね…。」




「まぁ、僕もあの頃は里の為と命懸けでしたからね。
…ゴホンッ、雨隠れの里が忍の出入りを厳しく審査するのは里の情報が外部に漏れることを阻止する為…昔大蛇丸様が時に情報は武力より勝る武器となる。そう言われた様にです。
それは上に近付く程…上層部に近付けば近付く程…審査は厳しく、長い時間を必要とします。
しかしそれは入国者に対して行える審査…。勿論雨隠れの者が里を出る為に審査へ足を運ぶことも常識…。
問題は審査の目を掻い潜り里を出ようとする者…つまりは……。」




「抜け忍…ね。」




大蛇丸はニヤリと笑う





「その通りです。里を裏切り里抜けする者…、任務などの失態で里を追われる者…、何かの罪を犯し里に居られなくなった者…。」




「…それで、その話がどうあの子と関係するのかしら?」





「…抜け忍を放置すれば里にどんな害があるか分からない。上層部の情報を漏らされれば壊滅の恐れがあるかもしれない…。
里に恨みを持つ抜け忍ならば復讐しに来るかもしれない…。」





「…………。」





「その前にその反逆者共を処断する…木の葉で言えば暗部に近い組織が存在します。」





「まぁ、いるでしょうね…。里の闇を切る者達が…。」




「かつて…“根”が行っていたようなことが……。」





「…………。」




表情を曇らせるカブトに大蛇丸は口を一の字にする




カブトは続ける




「噂を聞きました、里の裏切り者を処断する一人の女が上層部に仕えていると。
それは組織でもなく、部隊でもない。
たった一人で雨隠れの闇を斬り、秩序を護る…名前は知られておらず、顔も見た者は居ない…何故なら出会った者達は二度と出ることの出来ない監獄…あるいは口がきけない屍と化しているから…。
ですから定かではない噂です、白き刃を二振り携え、雪の様に舞い、圧倒的な力には吹雪の様に相手を凍てつかせる。
剣技だけに止まらず、海の支配者と呼ばれ恐れられていた海蛇を手懐けた…海蛇使いの白雪姫と呼ばた一人の女…。」





長い説明を終え、カブトは大蛇丸に視線を注ぐ




「二振りの白い刀に…。」



「海蛇使いの異名…。」





「まさか…?」




「まさか…ですかね?」





二人が同時に思い浮かべたのは腰に二振りの刀を携え、“ハクビ”と呼んだ海蛇を口寄せ獣として使っている裕巳の姿




二人は知らない…いつも二人の側で笑っていた少女の素顔をーーー



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