第二章

□23.止まぬ雨
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木々から漏れる微かな光りを頼りに生い茂った森を駆け抜ける一人の忍
腰には二本の刀を携え、時折カチャ…と音を立てる
額にしている額当てには雨隠れの忍である証が彫られている




長い水色の髪を揺らし、何かを追っているような足どり
その標的に追い付いたのか、彼女はクナイを一本ポーチから取り出すと安定感のない姿勢にも関わらず、それを放った




シュッ ザク!




「チィッ!」




舌打ちを漏らしたのは自分の直ぐ隣の木に刺さったクナイを見た大男だった




一つの足音が止まると、追ってきたもう一つの足音も止まった





「まさか追忍がお前の様な小娘だとはな…。」




大男は馬鹿にしたように笑うとクナイを構えた




「…雨隠れの臥竜、貴方を秘伝書窃盗の容疑で拘束させて頂きます。」





彼女は手帳の様な物で“臥竜”と指した大男を確認すると印を結ぶ





「ヘッ…容疑なんかじゃねぇ。」




臥竜は懐からスッ…、と二本の小さな巻物を取り出す




「それを返しなさい。」




彼女は手を伸ばす
素直に言うことを聞くような輩でないことは承知の上だったが、やはり予想通りだった




「断る!」




「…………。」




彼女は手を引くと静かに口を開く




「どうして貴方程の忍がそんな秘伝書を?」




「力だ‼」




臥竜は叫ぶ




「………。」




「力がいる…もっともっと力をつけて…オレは…。」




「それは里の為に? 自分の為に?」




「あぁ? そんなもん、自分の為に決まってんだろうが。」





彼女は悲しげな表情を浮かべる





「駄目だよ…自分の為に力を振るったら…。」





「るせー‼ とにかくてめぇは此処で死んでもらう。
恨むんなら余程人手不足と見える上層部を恨むんだなぁ‼」




臥竜は印を結ぶと背中に背負っていた傘を開く




「“忍法…如雨露千本”‼」




広がった傘から千本の槍のような殺傷能力をもった針が彼女に降り注ぐ




「…………。」




グサグサグサッ…!





辺りが土煙で見えなくなると臥竜は辺りを見回して笑う





「ふっ…殺ったか?」




キランッ、と目の前が光った




「ん?」




ザッ…!




その土煙を払い、そのまま剣を横に構えた彼女が臥竜に突っ込んできた




「な…にぃっ…!?」




その大きな身体ごと真後ろの大木に叩き付けられる




ザンッ‼



臥竜の額から汗が流れた

喉に当てられた刀身



ゴクリと下手に唾を飲み込めば斬れる距離だった




そんな彼女の姿を間近で見ると臥竜は恐れたように呟く




「お前…まさか…上層部に仕える“世斬り”か…!?」




「…………。」




何も答えない彼女に臥竜は確信する




「どうやらその様だな…。
ヘッ…人手不足どころか、最高ランクに追われてきたって訳か、オレは…。」




「…………。」





「殺れよ、お前みたいな奴に殺されるなら本望だ…。」




「…貴方の死去命令は出されていない、だから命はとらない。
里に戻り、罪を償って…。」





彼女はそう言って剣を鞘に収めた




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