第二章

□23.止まぬ雨
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ユラユラと火が揺れるその部屋の灯りは、部屋の角に四つある蝋燭の光だけが頼りだった
太陽が沈むと元々雨の降り続くこの雨隠れの里は更なる闇を増す



ザァァァァ、という耳障りな雨音を聞きながら彼女は片膝をつき、頭を下げ、一人の男に向き合っていた




「世斬り…本日も素晴らしい働きだった…。」




その渋い声を発するのは見た目五十代くらいの黒髪を腰まで伸ばした男
雨隠れ上層部のうちの一人、融雨幻(ゆうげん)と呼ばれる男
座布団に座り、三メートル程離れた彼女に褒讃の言葉を贈る





「勿体無い御言葉です。」




無機質な声で答える彼女




「…どれ、何か褒美を取らせようか?」




何か考える融雨幻に彼女は首を横に振る




「いえ、結構です。」





「そうか…。」




沈黙が降りると廊下から足音が聞こえてくる
やがてその足音はこの部屋の前で止まり、姿勢を低くする




「何用だ?」





融雨幻が聞くとその扉の向こうから声がする




「只今任務を終え、帰還しました。」




「おぉ、雨陸か…ご苦労。下がって良い。」




その言葉に困ったように言う雨陸





「しかし、幾つか報告もーーー。」




「雨陸、私が下がれと言ったら下がれば良いのだ。」




低い声を聞き、姿勢が揺れた




「し、失礼致しました!」




その姿はそれだけの言葉を残し、去って行く




「………。」




「…済まないな、世斬り。」




「いえ…。」




「…それでだ世斬り、お前に与える任務がある。」





「何ですか?」




融雨幻は一枚の写真を放ると床を滑り、裕巳の元で止まる





三十代位の女性だった





「この女性が何か…?」





「あぁ、今回のターゲット。
名は水無月、スパイ忍者だ。」





「スパイ…? して、どのような令状を?」




融雨幻はニヤリと笑う





「殺せ。」




「死罪…ですか?」




「あぁ。」




理由を言おうとしない融雨幻に彼女は聞く




「この女性は何をしたのですか?」




「そんなことは知らなくて良い、そうだな…この女は二重スパイとして我々の里を売った…というところだ。」





「……………。」




彼女は写真に視線を落とす




「やってくれるな? 世斬り…。」




「…はい……。」




彼女はその写真を懐に忍ばせる




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