逢魔の砂時計

□共存者
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「チクショー…なんでこんなにこいつの身体は柔なんだよ…。」


静かな部屋に声がした


ベッドに横たわる青年は首筋にうっすら汗をかき、不満げに口をへの字に曲げている


声の主は獏良しかし心は獏良ではなくその主に宿りついた闇のバクラだった


時は二月、 獏良が通う童実野高校にはインフルエンザが流行真っ盛り、獏良もその中の一人で強制休学中
表の獏良が眠ったところで裏の人格であるバクラが外に出てきた


「あーダリィ…身体熱ぃ…気持ち悪ぃ…腹減った…。」


身体はピクリとも動かさないが口だけは元気に動く


「つーか暇だ…俺様を暇死される気かよ、なんかねーのかよ面白いこーーー。」


コンコン、と部屋のドアにノックされた


「…お。噂をすれば…。…どうぞ…。」


声音を高くして来客を招いた


扉が開けばそこには同じ童実野高校に通う二人の友人


「獏良君、お見舞いにきたよ!」


「お邪魔しまーす。」


「やぁ、遊戯君、杏子ちゃん。」
(なんだこいつらか…今は相手出来ねーんだよ、…宿主に任せるか。)


バクラの瞳の鋭さがなくなる


「…ん、あれ? 遊戯君達…どうしてここに?」


目の前に現れた武藤遊戯、真崎杏子に獏良は目を丸くする


「学校終わったからついでに寄ったのよ、大丈夫? 獏良くん。」


「あ…うん、ありがとう。
でも駄目だよ…君達にも移っちゃうから…。」


「でも獏良君、一人暮らしだからさ、何も食べてないんじゃないかって杏子が。」


「インフルエンザでも風邪でも食べないと治らないからね!
獏良君、ちゃんと朝とお昼食べた?」


心配してくれる二人に獏良は力なく笑う


「はは…それが身体が思うように動かなくて…今も寝てた筈なのにすごく眠くて…。」


「あっ、ごめんなさい!
じゃあ起こしちゃったわね…よしっ! お詫に私が美味しいおかゆ作ってあげる!」


杏子は『待っててね!』と言い残すと部屋を出ていった


「杏子張り切ってるなぁ…。」


遊戯が笑うと獏良は何となく気になった質問をする


「ねぇ、遊戯君…城之内君と本田君は?」


「え? あぁ、本田君は獏良君と同じ日からインフルエンザで休んでて城之内君は今日からインフルエンザで休んでるよ。」


「へぇ…城之内君でもインフルエンザにかかるんだね…。」


「う…、うん、そうみたいだね…。」


突然の毒舌に遊戯は反応に戸惑う


獏良は物大人しい性格だが、時々毒を吐く


それは獏良の近くにいる者なら知っているが、悪気があるように言っていないので対応に困る
寧ろ純粋な顔で言うから余計に質が悪い


次の話題を探しているところに杏子が戻ってきた


「お待たせ! 獏良君。
口に合うと良いんだけど…。」


差し出されたお盆を受けとる


「ありがとう、杏子ちゃん。いただきまーす。」


さっきまで死にそうな顔をしていたが食べ物を前にすると意気揚々にスプーンに手を伸ばす


一口食べたところで獏良はパアッと喜びの表情を浮かべる


「美味しいよ、杏子ちゃん!」


「良かった! でも熱いから冷ましながら食べてね。」


『何か宿主が急に元気になったな?
こいつらと何してんだ?』


獏良の心にいたバクラが現状も確認せずに興味本意で表に出てきた
しかしそれは宿主である獏良がおかゆを口に運んだところで…


「ーーーーッッ‼ 熱ッッチ‼」


意識の外から入ってきた灼熱のおかゆにバクラは吹くとこは我慢したが、盛大に叫んでしまった


「大丈夫!? 獏良君!」


「火傷しちゃった!?」


バクラはしまったと思い、宿主を演じる


「だ、大丈夫だよ。ちょっとびっくりして…。」
(ん…? あぁ、これのせいか。)


バクラは手元にあるおかゆを確認、そうだと何か考え、杏子に視線を移す


「おい、女。これあと10人分作ってこい。」


宿主を演じる気がないのか、バクラは素のまま杏子に命令するように言う


「じ、10人分!?」


驚く杏子に今度は遊戯に視線が向く


「おいチビ、お前はシュークリーム売ってるだけ買ってこい。」


「え、売ってるだけって…。」


戸惑う遊戯と杏子にバクラは二人を睨み付け、叫ぶ


「さっさと行ってこい‼」


「は、はぃぃぃ‼」


二人は慌てて部屋を出ると小さな声で杏子が遊戯に耳打ちする


「ねぇ、遊戯…獏良君どうしちゃったんだろ…。」


「う、うん…。もしかして獏良君じゃなくて…。」


「え、何?」


「ううん、何でもないんだ!
とりあえず行こう、杏子。」


「え…うん、そうね…。」


心配そうに扉を見る杏子に遊戯は言う


「大丈夫だよ、自分の身体は自分が良く分かってるし。
それに獏良君は一人じゃないしね。」


「え?」


杏子は目を丸くするが、遊戯はそれ以上何も言おうとしない


(ちゃんと宿主の獏良君のこと考えてくれてた…バクラ君に任せておけば大丈夫だよ。)


2016/03/10
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