逢魔の砂時計

□ずっと側に…
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バクラの魂は浮幽霊のようにその町を漂っていた


千年リングは全ての千年アイテムと共にエジプトに埋まり、宿主を失った魂


本来ならアテムよりも先に消えた筈の魂


それがまだ消えていないのは果たして…?



「クククッ…消されてもただでは冥界なんてものに戻らねーぜ俺様は!」


バクラが目覚めたのはアテムが消えて数日後
気がつけばこの町に居たという


バクラの目の前には童実野高校


バクラはその地に足を踏み入れた


「さて、元宿主様は今頃…。」


どうやら獏良を探しに来たようで辺りをキョロキョロを見回す


するとグッドタイミングで獏良を見つけた


「お。元宿主発見! …って遊戯達も一緒かよ…。」


門に向かって歩いてきたのは遊戯に城之内、杏子、本田、そして目当ての獏良だった


バクラは五人に近付く


「なぁ、それから獏良家で久し振りにゲームやらねーか!?」


城之内が提案すると獏良は少し驚いた顔をする


「え、今からかい?」


「獏良家でゲームなんて前やったきりだからな! 遊戯もやりてーだろ?」


「(おい、冗談じゃねーぞ城之内!
元宿主! そんなもん断れ!)」


バクラの思いが通じたのか、獏良は申し訳なさそうに断る


「ごめん、城之内君。ボク今日は遊べないんだ。」


「そうなのか、んじゃ仕方ねーな。」


頭の後ろで腕を組む城之内


その訳を杏子が聞く


「何か用事?」


「…うん、そんなとこ。」


「(煮えきらねーな元宿主様はよぉ。もしかして俺様が居なくなって悲しんでるのか?)」


少し期待するバクラ


「…そういえば遊戯君、首から掛けてるのって…。」


「…ん? あぁ、コレ?」


ジャラ…と遊戯の首に掛かっているチェーンが音を立てる


それは千年パズルを吊るしていたものに良く似ていた


「どうしてチェーンだけ掛けてるの?」


「んーなんか首に何か掛けてないと落ち着かなくってさ。」


「アテム君…だったね。彼は無事仲間の元に逝けたのかな…。」


その言葉は遊戯を始め、全員を黙らせた


「(けっ…アテムよりも俺の話題を出しやがれってんだ…。)」


「あっ…ごめん! 無神経なこと言って!」


獏良は四人を見て慌てて謝罪した


遊戯は眉を下げ気味にして笑みを浮かべる


「ううん、気にしないで獏良君。アテムの事を心配してくれてありがとう。」


「あいつなら大丈夫だ! な、遊戯!」


「うん、アテムも昔の仲間のところに還れて喜んでると思う。」


「本当…昨日のことみたいに覚えてるわ。」


杏子は目を細めて呟く


しんみりとした空気を振り払うように本田が声を上げた


「おいおい、しんみりしてんじゃねーよお前ら!」


それに直ぐ賛同したのは城之内


「そうだぜお前ら! アテムの方はアレだとしても、獏良は良かったじゃねーか。もう闇の人格に支配されなくて万々歳だろ!?」


「(何だと城之内てめー! 呪い殺す‼)」


バクラが殺気を放っていると追い打ちをかけられる


「うん、それは本当に良かったよ。」


「(んなっ!?)」


絶句


「朝起きても身体は重くないし、授業中も眠くならないし、お金も減ってることがないし、何と言っても知らない間に重体負ってないしね〜!」


「そ、それは今まで散々だったわね、獏良君…。」


一同の笑顔が引き吊る


「(ボロクソ言われてんじゃねーか!
つーか金なんて使った覚え…いや、デッキ強化の為に多少は使ったかもしれねーが、それにしては言い過ぎだろ!)」


叫ぶが肉体がないので届かない

あまりの不評に軽く傷付く


「あ、それよりさ〜遊戯君、最近出たあのゲーム知ってるかい?」


「(『それより』!? 宿主! 俺はお前にとって『それ』程度なものなのかよ!?)」


「あ、もしかして『マドクエ』のこと!?」


「そうそう! あれさぁーーー。」



ーーー

ーーーーー


ーーーーーーーーー




「ーーじゃあね、獏良君! また明日ー。」


「うん、また明日学校で!」


獏良は遊戯達と別れるとマンションへと向かう


「(チッ…結局ゲームの話しかしやがらねぇ。
俺様は本当に宿主にとっちゃただの厄介者だったってことか。)」


面白くなさそうにバクラは口を尖らせる


玄関の鍵を開け、獏良は部屋に向かう


ガチャ


机に鞄を置き、獏良はベッドに身を投げた


ボフッ…


「…………。」


「(珍しいな、元宿主がゲームも宿題とやらもせずに…。)」


獏良は片腕を顔に置き、ただただ時を刻む音が部屋に響く


カチッカチッカチッカチッ…


「(あー‼ ったく何なんだよ! 俺様が心配してるみてーじゃねーか‼)」


馬鹿馬鹿しい、とバクラが乱暴にドアノブに手をかけた時…


「バクラ…。」


「……!」


反射的に振り返る


バクラはそれを目にして目を見開いた


獏良の瞳からは一筋の涙


「…何で…何で居なくなっちゃったんだよ…。」


「宿主……?」


「ボクを置いて…どこ行っちゃったんだよ…。」


「…………!」


触れたい 届けたい


この手で この声で



「バクラッッ‼」


「ーー宿主ッ‼」


何も考えずその手を伸ばした


「……!!?」


獏良が振り返る


目と目が合った


「…バ…クラ…?」


「…宿主…俺様が…見えてるのか?」


「バクラッ‼」


視界一杯に獏良が映った


気がつけば獏良が抱き付いていた


「どこ行ってたんだよ! ボクがどんなに……ッ!」


届いた… 触れられた…


「悪い…もう…何処にも行かねーから…。」


バクラは獏良の細い身体に腕を回した


(細ぇ…飯食ってんのか…?)


「本当に? 本当に何処にも行かない?」


「あぁ、約束する。」


「嘘じゃない? 約束だよ?」


「あぁ…。」
(保証するぜ…何故なら俺様が消えられなかったのはこの世に未練ってやつが出来ちまったから…。)


「バクラ…?」


「何でもねーよ。」


その未練ってのは…伝えるまでもねーよな…


2016/03/21
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