逢魔の砂時計

□護ると決めたもの
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それは登校中の事だった


「ふぁぁぁ…。」


獏良は大きな欠伸をして目尻に涙を溜めた


「眠い…。」


フラフラしながら学校へ向かう獏良


その姿を捉えている三人の視線があった


「おい、あの白髪のガキ…。」


「ん? あいつは!」


「間違いねー、暗くて良く見えなかったがあの白髪にロン毛はあの時のガキ…!」


「嘗めたマネしてくれやがったよな…ちーとあの時の礼でもするか?」


ニヤリとニット帽を被った細身の男が笑う


「あぁ、良く見たらひ弱そうなガキじゃねーか。」


男達は獏良へと近付く


ザッ…


獏良は目の前に現れた見知らぬ顔に戸惑った


「えと…ボクに何か用ですか?」


「あぁ、大事な用があって…なっ!」


「…ぐっ‼」


いきなり腹に衝撃を受けた


一人の男が獏良の腹に膝を蹴り込んだ為だ


腹を押さえて膝をつく獏良


「あの後墓地でのデュエルは勝ったのか? えぇ?」


「墓地…? デュエル…? 一体なんのこと…?」


まるで覚えのない獏良


「てめー…しらぁ切ってんじゃねーよ!」


「…痛ッ!」


グイッと髪の毛を引っ張られ獏良は眉間に皺を寄せる


「おい、此処じゃ目立つ。」


一人の男が忠告すると男は『そうだな』と言って獏良を人気のない裏路地に連れ込んだ




ガッ


「…ッ!」


ガコッ! とゴミ箱に放られ、獏良はそのまま地べたに転がった


「あの時は『俺様』とか意気がってたクセにだらしねーなぁ!?」


「ボクじゃない…。」


「あぁ!? お前じゃねーんなら誰何だよ?
てめーみたいな格好した奴なんて早々見ねーよ。」


「それは…。」


言っても聞いてもらえる訳がない

自分の中にもう一つの人格があるなんて


「『それは』何だよ? あぁ!?」


ゴッ!


男の拳を受け、口の中に鉄の味が広がる


「…ぐっ。」


「おいおい、俺らが弱いもの苛めしてるみてーじゃねーか。少しはやり返したらどうなんだよっ!」


今度は男の足が腹にめり込む


「うっ…! かはっ!」


乾いた咳をして胃の辺りを押さえる獏良


「何とか言えよ。」


冷たい視線が獏良に落ちる


「ボク…喧嘩は…。ボクが君達に何かしたのなら…気がすむまで殴りなよ…。」


「けっ…! 先に喧嘩売ってきたのはお前だろうが!
おい、好きなだけ殴れだと。」


「良いのかよ? 折角のイケメンが腫れダコになるぜ?」


ヒヒヒッと笑う男


「………。」


「ちっ…気に食わねーなぁ!?」


グイッと獏良の髪の毛を無造作に掴みとり引き寄せる


「…ッ!」


ーードックン…


「女みてーにチャラチャラチャラチャラ…伸ばしやがって…。」


「おい、切ってやるか。」


ードックン…


「ヒュー良いね〜。ロン毛は校則違反ってな!」


一人の男が鞄を漁る


獏良は俯き、表情が読み取れない


「おっ鋏ハッケーン。」


ドックン‼


ギリ…ッ


「あ?」


男は手首に加えられた力に疑問を持ち獏良に目をやった


見れば獏良の手が男の手首を掴んでいる


「……………。」


ミシミシッ…


「お、おい…てめっ…!」


血の流れが止まる勢いで男の手首を締め付ける獏良
男の顔色が変わる


手に力が入らなくなり男は獏良の髪の毛を離す


ハラリ…


「お、おい…なんか…ヤバくねぇか?」


「……あの時の…!」


他の二人が後ずさる


その時だった


チリーン… チリーン…


「な、何だこの音は!?」


「おい、てめーら…。」


今まで黙っていた獏良が口を開く


気がつけば獏良の胸には千年リング


「ひっ!?」


「う…うわぁぁ!」


二人の男が短い悲鳴を上げ、その場を去る


「お、おい! てめーら‼」


「…チッ…まぁ、あの雑魚共への制裁も直ぐに下してやる。」


バクラは舌打ちしてから目の前の男に視線を映す


「な、何なんだてめー!」


「『何なんだ』?
それはこっちの台詞だぜ…。」


ギリギリ…


「ぐわぁぁ‼ う、腕が折れる…‼」


「てめぇ…俺様の宿主にしたこと…倍に返してやるよ…。」


それは地を這うような声音だった


バクラの瞳に危険な光が走る


「や、やめ…‼」


ボキッ‼


「ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!」


狭い裏路地に男の悲鳴が響く


「ペッ。」


バクラが吐き出した燕は赤く染まっていた


「チッ…こんな奴等に好き勝手させやがって…。」


バクラは元の道へと足を向ける




(バクラ…?)


「…気がついたかよ、宿主。」


(なんか…怒ってる?)


「たりめーだろ!? 何で俺様を呼ばねぇ!?」


(…いつもボクはお前に護られてるから…だから、ボクもお前を護りたかった…。)


「…。馬鹿じゃねーのか? てめーに護られる俺様だと思ってんのか?」


(ゴメン…。)


「……良いか、彼奴等は俺様が撒いた種なんだよ!
てめーが殴れてやる必要はねぇ‼」


(ゴメン……。)


「……クソッ!」


バクラはどうしようもない苛立ちを近くにあったビール瓶の入った籠を蹴る


ガッシャーン‼


(…………。)


「(クソッ…ムカつく…。二度と宿主をこんな目に遭わせたりしねぇ‼)」


(…‼ バクラ…バクラが怒ってるのって…?)


激しい感情の揺れは宿主である獏良にバクラが何に対して怒っているか感じ取ってしまった


「うるせー‼」


(……ありがとう、バクラ。)


2016/03/23
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