逢魔の砂時計

□記憶の断片
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それは真夜中だった


「…う…はっ…。」


“助けてくれ…”
“うわぁぁぁぁぁ‼”
“やめろぉぉぉぉ‼”


「…すな……で…れ…っ!」


「…バクラ。」


「…はぁ…はぁ…やめ…‼」


「バクラ‼」


「ーーー!!」


バクラの意識は急激に浮上した


飛び起きるように起こした上半身は汗をかき、運動した直後のように呼吸が整わず、肩で荒い息を繰り返す


「バクラ…大丈夫?」


状況を見てみる


今は深夜、ベッドの上
隣で一緒に眠りについた宿主が心配そうな表情を浮かべて此方を見ていた


どうやら悪夢をみていたようだ


「お、おう……夢を見ーーー。」


続きの言葉は出なかった


夢…? いや、あれは夢ではない
誰かの記憶…

誰の記憶なんだ? 一体俺は…


「どうしたの? バクラ…凄い汗…。」


宿主がバクラに触れる


その手は温かかった


闇の中に存在する自分に一筋の光を与えてくれるように


「宿主…俺…変なこと言ってたか?」


聞かれてはいけないことを言った気がする
打ち明けてはいけない感情を晒した気がする


獏良は少し間を開けてから答える


「ううん、何も言ってなかったよ。」


「…そうか……。」


心底安心した


「バクラが魘されるなんて、珍しいよね。」


「悪ぃ…起こしちまったな…。」


「良いよ、別に。」


「…寝ようぜ、宿主は明日も学校だろ?」


バクラは獏良に背を向けて目を閉じる


「……うん、そうだね。」




ーーーー


“王を憎め…”
“王を殺せ…”
“我々の復讐を打て‼”


「………うっ…。」


また…聞こえる…

止めてくれ…!

俺様を……俺様を独りに…



ーーーしないでくれ



“大丈夫だよ”


また声が聞こえた


“お前を独りになんてしないから”


誰だ? この声の主は…?


“ボクがずっと隣にいてあげる”


あたたかい…





ーーーー


ーーーーーー


ーーーーーーー



「ーーー!」


バクラはバチッと目を覚ました


それと同時に身体の不自由を感じる


何だと思って首を回してみる


「…!」


宿主の獏良がバクラに後ろから抱き付く格好でまだ眠っていた


「…バ…クラ…。」


もしかして昨夜感じたあたたかさは…


ふとバクラは時計をみる


7:30


んっ!? と、一瞬見間違いかと思った


「おい、おい宿主! 起きろ‼」


次の瞬間慌てて獏良を起こす


「んん……大丈夫…。」


「いや、大丈夫じゃねーし!
遅刻したら『何で起こしてくれなかったの!?』って言うのはお前ーーー。」


「大丈夫だよ…バクラ…ボクが…ずっと…。」


「ーーーー‼」


バクラは宿主を起こす手が止まった


あれは…夢じゃなかったのか?


昨夜の事を思い出す


「ん…あれ? バクラ…?」


半目な宿主と目が合う


「おい、宿主…昨夜…。」


「っあぁぁぁぁぁぁあ‼」


バクラが聞こうとしたことは獏良の叫びで消し飛んだ


何事かと思えば獏良は時計を目にして信じられないものをみた顔をしている


「宿…。」


「もぅ! 何で起こしてくれなかったの!?」


獏良はベッドから飛び降りて制服をクローゼットから出す


「いや、だから起こして……。」


「よりにもよって一時間目体育なのに!」


「それより昨夜ーーー。」


「ほら、早く行くよ‼」


パシッと獏良がバクラの手を取った


「ーーー‼」



“ボクがずっと隣にいてあげる”



どっちでも良いか…


夢でも幻でも現実でも…


お前が側に居てくれるなら…


「宿主。」


「何?」


「…いや、何でもねぇ。」


…ありがとな


2016/03/25
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