逢魔の砂時計

□届けたい言葉
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『俺様は敗北(まけ)たのか…。
あぁ…あいつの中にある残留思念も消える…。
宿主…いや、獏良了。これで最後だ…。
完全に消える前に一つ…一つだけ…お前にーーー…。』






「…!」


ガバッと身体を起こせばそこは教室だった


先生が黒板にチョークを走らせる音が響く


隣から視線を感じたので振り向く


「獏良君、大丈夫?」


「遊戯君…うん、何でもない…。」


いつの間に寝ていたのだろう


「そう…なら良いけど、具合が悪いなら保健室に行きなよ?」


「うん……。」


おかしい…


学校へと来た記憶がない


今まで授業を受けていた記憶がない


まるで夢の中にいるような感覚


獏良は手の甲をつねってみた


痛い


これは夢の中じゃない




キーンコーンカーンコーン…




授業が終わった


クラスの皆は荷物を纏めて帰り出す


「獏良ぁ!」

「獏良君! 一緒に帰ろう!」


「…あ、城之内君、遊戯君…うん、帰ろう。」


ボクも荷物を纏める


「…でよ、遊戯ー。」

「城之内君それ本当〜?」

「まじまじ! 今度行こうぜ!」


二人の声が遠くに聞こえる


どうしてしまったんだろう


「獏良、まだか?」


「あ、うん。もう行けるよ。」


「今日杏子と本田君はバイトなんだって。」


「そうなんだ、見つからないと良いけどね。」


三人は下駄箱へと向かう


「なぁ、帰りコンビニ行って良いか?」


「ボクは用事ないけど付き合うよ。獏良君は?」


「あ…うん、何か見ようかな。」


「よっしゃ決まりだ! コンビニまでダーシュッ!」


「ちょ、待ってよ城之内君!」


二人の背中を見ながら獏良も走り出す


「いらっしゃいませー!」


店員が挨拶をすると城之内はすぐ雑誌コーナーへと向かった


「…遊戯君、ボクちょっとトイレ行ってくるね。」


「あ、うん。分かったよ、終わったら外にいるね。」


「…うん。」


獏良はトイレに入る


「…何でこんなに気分が冴えないんだろ…。」


獏良は鏡に写った自分を見る


「…………。」


自分の姿を見ていると心に波が打った


「どうしてこんなに寂しいんだろ…。」


獏良はトイレから出ると何も買わずに出るのは気が引け、商品を見た


ガサッ


シュークリームを手に取る


「何だ獏良、シュークリーム二つ買うのか?
それ賞味期限近いぞ?」


横から城之内の声が掛けられる


「え?」


手元を見れば確かに二つのシュークリーム
消費期限は今日までだ


無意識だった


「獏良シュークリーム好きだよなぁ。
でも流石に今日二つはキツくねぇか?」


「…そう…だね。」


あれ…? どうして二つも取ったんだろ…
今そんなにシュークリーム食べたい気分じゃないのに…


獏良は一つシュークリームを戻す
するとそこに遊戯がやって来た


「あ、いたいた。あれ? 獏良君今日はシュークリーム二つ買わないの?」


「…え?」


「ん? 何言ってんだ遊戯?」


「え? あれ? 獏良君前から二つ買ってなかった…? 気のせいかな。
あはは、ごめん。気にしないで。」


矛盾が生じた


何に矛盾を感じたのか分からないけど

城之内と自分、そして遊戯の間に何か違和感がある…




「ありがとうございましたー。」


店を出ると獏良は分かれ道を背にして手を振る


「じゃあ二人とも、また明日ね。」


「おぅ! またな獏良!」

「またね獏良君!」


電車が渡る音

青信号の鳥の声

街のざわめき


どれも響いてこない


どうしてこんなにも静かなんだろう


何か忘れている気がする


とても大切なことを


とても大切な人を


「ただいま…。」


盤ゲームを見下ろす


“続いてのニュースです”


画面が光っているテレビに視線を移した


つけっぱなしで出ていくなんて今日は本当にどうかしてる


画面に映し出されたのはピラミッド


獏良の目が一杯に開かれる


“エジプトの地下神殿付近で震度5を計測する地震がーーー。”


「……バク…ラ…。」


無意識に呟きた


ガクッと膝を折る


茜色の空は闇に変わった



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