逢魔の砂時計

□心を護る者
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“助けて…”



呼んでる…



“誰か…助けて…”



呼んでる…ボクを呼んでる…






「…!」


そこは見知らぬ土地だった


「どこだ? 此処…?」


ドォン‼


いきなり爆風が起こった


「ーーー!!?」


「ぎゃあぁぁぁぁ‼」

「し、神官だぁぁ‼」

「逃げろ! 逃げろぉぉぉ‼」


人々が血相変えて走って行く


見渡せば辺りは炎の海


「何なんだ? どうしてボクはこんなところに…?」


ドォン‼


「…わっ!」


ドサッと目の前で子供が転倒した

反射的に獏良は膝を折って助け起こす


「大丈夫?」


立ち上がった子供の姿に獏良は目を見開く


「ーーーえ?」


肩につくくらいの短い白髪

黒い肌

あまり清楚とは言えない破れた服


どうしてだろう…? こんな子供に会ったことないのに

ボクは君を知ってる気がする


「お前、誰…?」


その子供は見たことのない獏良の白い肌に一歩、後ずさった


「…え、と…。ボクは悪いやつじゃないよ?
さ、君も早く逃げないと、おいで?」


獏良は子供に手を伸ばす


誰が敵でどこへ逃げれば良いのか分からなかったが獏良はこの子供をほっとけなかった


「…悪いやつじゃないのか?」


子供は獏良の手をとった


疑うことの知らない子供

温かい体温

純真無垢な瞳


二人の手が繋がった瞬間、獏良は衝撃にも似た感覚に襲われた


「ーーーー!!!」


「…どうしたの?」


子供が訊ねると獏良はその小さな身体を自分に引き寄せた


「…っ! やっぱり…君なんだね…。」


「…俺のこと…知ってるの?」


「あ…えと、君に良く似た人を知ってるんだ。ボクは獏…了って言うんだ。」


名字を言いかけて獏良は名前の方を教える


「リョウ…? お前はリョウと言うのか?」


「うん。さ、早く逃げよう!」


「…足が…。」


子供は裸足の足首を押さえて顔を歪める


「捻ったのかい?」


慌ててうっすら青くなっている子供の足首を診る


「さっき転んだ時に…。」


子供がそう言い終わる前に獏良は子供に背中を向ける


「さぁ、ボクが背負ってあげる。早く!」


「………。」


子供は遠慮がちに獏良の背中に身を預ける


「走るよ! 捕まってて!」


獏良は走り出す


「…聞いても良いか?」


子供は揺れながらバクラに聞く


「何?」


「どうして見知らない俺を助けてくれるの?
此処が何処か分かっているのか?」


「…ほっとけないんだ。言ったでしょ!
ボクは君に似た人を知ってるって。」


息が上がってきた


「それだけの理由で他人を助けるの…?」


「目の前に困っている人がいるだけで助ける理由は十分じゃないかな。」


「…変わってるな、リョウ。
二つ目の質問はどうなんだ?」


「え? 此処が何処かって? それがサッパリ…エジプトでしょ?」


「エジプトのクル・エルナ(盗賊)村だぞ?」


「盗賊の…村?」


「そうだ、人のものを盗み生きている人間の村だ。
そんな村の人間を助ける義理なんてないだろう?」


「…君はそれが悪いことだと分かっているんだね。」


獏良は優しい声音で言う


「…分かるさ、村を襲い、人を襲い、命を奪うことだって少なくない。
それが自分の村に起きたら…そんなこと、考えていた。
それで現実を見る時が来た…。」


子供は真っ赤に燃える炎を目に宿す


「…そっか。」


「…あ! その建物から地下に入れる!」


子供が細い腕を伸ばした


「…分かったよ! 地上が落ち着くまで身を潜めよう!」





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