逢魔の砂時計

□粋も甘いも
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「…あぁー。うめぇ。」


盗賊王バクラが酒瓶を床にトンッと置いたところで獏良とバクラが口を開く


「あんまり飲んだら身体に悪いよ?」


「あんまり宿主を心配させんじゃねーよ盗賊。」


その言葉に対して盗賊王はヒック、と声を漏らす


既に出来上がっているようだ


「あぁ…? そんなに呑んでねーよぉ…。」


「嘘つけ、ベロンベロンだぞ。」
 

「そうだよ、お酒は適度にだよ?」


「…ヒック……酒の旨さを知らねーガキが…。」


酔っていると分かっていてもバクラはその暴言にイラッとする


「何だとこの盗賊野郎が!
俺様だってなぁ! 酒の味くらい分かるわ‼」


「あぁ〜お前三千歳だもんなぁ〜おじいちゃんに酒は与えちゃいけねーなぁ…。」


「誰が三千歳のおじいちゃんだ!?
ブチ殺されてーのか‼」


盗賊王の胸ぐらを掴み上げ、ブチ切れるバクラ


「ちょ、ちょっと止めてよ二人とも!」


獏良が仲裁に入るが二人は止まらない


「おめーだよおめー。…あ、じゃあ呑み比べしねーか?
俺に勝ったら今の発言は撤回してやるよ…ヒック…。」


「けっ! 誰がてめーに構うかよ!
独りで呑んだくれろ!」


「…チッ…せっかくハンデをやろうと思ったのによぉ〜。」


「うるせー、この酔っ払いがっ!」


バクラが相手をしてくれないからと盗賊王は獏良に視線を注ぐ


「な、何…?」


嫌な予感がする


「なぁ…了…? 俺とゲームしねぇか?」


(こいつ宿主のこと名前で呼びやがって…‼)


「ゲーム…? 良いよ。どんなゲーム?」


「これよこれ。」


盗賊王が取り出したのはデュエルモンスターズのデッキ


「え? ただのデュエル?」


意外に思ったが盗賊王はいいやと首を振る


「ただのデュエルじゃねーよ? …ヒック…ライフポイントを失うごとに……。」


「失うごとに?」


次の瞬間とんでもない言葉を聞く



「脱ぐ。」


「…………。」

「…………。」ビキッ←バクラ石化


獏良が口を開いたのは約10秒後


「ま、またまた冗談がうまいよね…。」


笑顔が大分引き吊っている


「冗談じゃねーよ?」


「………………。」


よっと。とか言いながら距離を縮めて獏良の顎に手を添える


「お前に羞恥を感じさせながらやるデュエルもなかなか味があって良いと思うんだけどなぁ〜?
つーかお前さっき『良いよ。』って言ってたよなぁ? …ヒック。」


「バ…ババ…バクラ……。」


泣きそうになりながらバクラに助けを求めるがバクラは放心状態


(宿主が負けるごとに……。)「ブフッ‼」


鼻から血を吹き出すバクラ
どうやら魂が戻ってきたようだ


「…バクラぁぁ…。」


その声にはっとしてバクラは鼻血を腕で拭きながら盗賊王に反論する


「ば、馬鹿言ってんじゃねーぞこの変態王が‼‼
宿主にそんなマネさせてみろ‼ てめーの魂粉々に粉砕してやるからな‼」


バクラの言葉にほっとする獏良

一方盗賊王は…


「良いじゃねーか減るもんじゃねーし…ヒック…。」


「減るよ! ボクの人間としての尊厳とかが!」


宿主が可哀想なことになっているのでバクラは溜め息を吐いて提案する


「わーったよ、俺様が付き合ってやるから宿主は止めろ。」


「あ? お前が付き合う? 俺はお前の裸なんて興味なーーー。」


「誰がエロゲーの方に付き合うと言った‼‼
呑み比べの方だ! 呑み比べ‼」


鬼の行相で叫ぶバクラに盗賊王はあぁ…と納得した


「…しょうがねぇ。てめーで我慢してやるよ。」


その言葉に心底安心したように深い息を吐く獏良


「我慢してやる…って喧嘩売ってんのか?」


「バクラ…ありがとう……。」


いつの間にか自分の背中に隠れていた獏良
至近距離でお礼を言われてキュンとなってしまう


「お、おぅ…俺様に任せとけ…。」


「別に喧嘩なんて売ってねーよ…あ、負けた時の罰ゲームでも決めるか。」


「おもしれー。」


「そうだな……。」


盗賊王は獏良に視線を移す


「えっ…何?」


バクラもまた

そして盗賊王が考えた罰ゲームが分かってしまう(罰ゲームと言うより勝者の褒美だが。)


「な…何? 二人とも…?」


「よし、分かったな?」

「おう。勝った方が頂きだな!」


二人はテレパシーが使えるかのようにお互い何を考えているのか分かった様子


「『頂き』って何!? どうしてボクを見て『勝った方が頂き』なの!?」


獏良は叫ぶが聞いちゃくれない


「俺はこのままスタートで良いぜ?」

「おいおい、只でさえ酔っぱらってるのに大丈夫かよ?」


バクラは挑発的に言う


「俺を誰だと思ってんだよ、それにさっきハンデをやると言っただろ?」


「そのことかよ。よし、酒の用意しろ!」


「とことん呑むぞー!」


二人は台所へ直進


「…苦情来たらどうしよう……。」


獏良はがっくり項垂れる


そして呑み比べが始まった



グビグビグビ

キュポンッ

グビグビグビ…

カチッ シュワ〜

グビグビグビ…


「…………。」


獏良は酒の匂いが充満した部屋にいるだけで酔いそうな感じだ


先程から二人のペースが上がりっぱなし
水なんて飲もうとしない


バクラも結構酒を飲める人だった


「ぷはー!」

「…くーーぅっ! 久し振りの酒はうめぇなぁ‼ 宿主も飲まねーか?」


「い、いや…ボクは未成年だから…。」


バクラも既に酔っている様子

普段の彼ならボクの身体を心配してお酒なんて勧めない

いや、盗賊王にしたってそうだ


酒が二人を変えてしまった


「お前結構イケる口じゃねーかぁ…あぁ?」

「けっ! 俺…様を誰だと…思ってやがんだ?」


眠いのか、バクラはゆらゆら身体を揺らしながら言う


「でも…ヒック…負けねぇからなぁ!?
了は俺…の…もの…。」


意識が遠くなるように盗賊王の声は薄くなり後ろのソファーへと寄りかかる
そして寝息が聞こえてきた


「寝ちゃった…。」


「ったく、人騒がせだよな。」


バクラは今までの様子が嘘だったかのようにスタスタと寝室へ行き、持ってきたタオルケットを盗賊王に被せた


「…え?」


獏良が目をパチクリさせている


「宿主、酔ってねーか? 顔赤いぜ?」


ボクの顔が赤いのはたまたまだろう、それよりも…


「バクラ…呑んでなかったの?」


「呑んでたぜ? 最初はな。
途中で俺様のもこいつ(盗賊王)のも水に入れ替えた酒瓶を飲んでただけだ。」


「え? えっ?」


「こいつ、酒か水かも分かってなかったからな。あれくらいで良かったろ?」


ニヤリと笑うバクラ


「…ありがとバクラ、彼のことを気遣ってくれて。」


「けっ…俺様が気遣ってんのはお前だけだぜ?
万が一にもあいつが勝ったらお前を一晩自由に……っと! いや、何でもねぇ!」


慌てたように口を閉じるバクラ


「…でも、ありがとう。」


「…まぁ、いいか。
ところでよ宿主…俺様も少しとはいえ一気すれば多少酔うんだよ…。」


すこし足元がふらついたと思ったらバクラは膝を折り、ボクの膝に頭を乗せた


「バクラ…!?」


「少し…眠ぃ…良いだろ? あのままやってても俺様が勝ったんだから……お前を…ひと…じめ…………。」


スースーと寝息が聞こえてくる


「こっちも寝ちゃった…。身動きが取れないんだけど…風邪引いちゃう…。」


獏良は自分の上着を脱いでバクラに被せた


「…二人が勝負に賭けたものって何なんだろ…。」


一つの疑問を胸に夜は深まっていく…



2015/03/31
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