短編

□それは酷く当たり前で
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真夏の日差しがカーテンの隙間から射し込む。
その強い光に、部屋の主である牛島若利はゆるゆると目を覚ました。

ゆっくりと起き上がり、ひとつ大きな欠伸をする。時計を見ると、針は5時を指していた。
今日も今日とて白鳥沢では朝練がある。とりあえず顔を洗うため、彼はベッドを降りた。


すると、机の上に置いてある携帯が光っているのが目に入った。
何かあっただろうか、と首を傾げながら携帯を開く。
見てみれば、そこには結構な量のメールが届いており、その全てに同じ内容が書いてあった。


ああそうか、と思いながらカレンダーを見やる。
今日は8月13日。彼の誕生日だ。

そして、昔から彼がひとつの疑問を持つ日でもある。



何故、誕生日を祝うのだろうか



「おはよう若利。」

ああ、大平か。おはよう。

「相変わらず早いな。今日は一番に来たかったんだが。」

そうでもないだろう。……いや、確かに少し早く目が覚めたが。

「そうか。それで早速だけど、誕生日おめでとう。サポーターなんだが、良ければ貰ってくれ。」

サポーターか。ありがとう、助かる。

「いやいや、こっちが好きでしてるだけだからな。」

「おー、早いな2人とも。おはよー。」

ああ、おはよう山形。

「メールにも書いたけど、誕生日おめでとう若利!これプレゼントな!」

ありがとう。何が入ってるんだ?

「何が良いのか分かんなかったから、パワーリスト買ってきたんだ。ちょうど紫のがあってさ。」

そうだったのか。ありがたく使わせてもらおう。

「安物で悪いなー。」


嬉しそうに笑う2人に不思議な感覚を覚えた。……せっかくだから聞いてみようか。


ひとつ2人に聞いて良いか?

「どうした?」

何故、誕生日を祝うんだ?

「えっ、当たり前じゃないのか?」

「……若利はどうしてそう思う?」

誕生日というのは生まれた事を祝う行事だろう。
だが、他の日と大した違いがある訳じゃない。何が特別なのか分からないんだ。

「んー。よく言われるのは、一年の成長を喜ぶって事らしいけど。改めて聞かれると困るなこれ……。」

「昔は色んな死因があって、寿命も短かったからね。この一年生きられた、ありがとう、って感じで感謝する日だと俺は思うよ。」

成長と感謝か……。

「もし、納得いかないなら、他の人にも聞いてみたら良い。解釈は色々あるだろうから。」


そう言って、大平はにっこりと笑った。
確かにそうだな、そうしてみよう。




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