大好きな... old

□優しさ
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丸「え...その頭、ど、どうしたんだよぃ...」

日付は変わって月曜日

今日から2日間球技大会が行われる

医者からは激しい運動は禁じられているので、今年は参加できない

そして、朝練があるテニス部は今日は筋トレだけらしく

今日は仁王君もどうしても行くと言うので待っていると家を出るのが遅れてしまった

そのために部室の中では皆が揃って着替えていた

『いえ、大した事はありません。自業自得ですので、ご心配なく』

ジャ「いや、頭に包帯を巻いて登校したら、誰もが心配するのは当たり前だろ」

『そうなんですか?』

幸「ふふふ、そうだよ」

黒い笑みを貼り付けながら、此方に向かって歩いてくる魔王(と噂されている)幸村君

僕の目の前で止まると片手を上げ、ガーゼのある額にそっと触れた

幸「それで?何があったんだい?」

笑みとは別の優しい手つきで撫でられている

彼らにとっては「子猫ごときで」と言うのは目に見えている

でも、そんな子猫でも一生懸命生きているだ

そんな言葉を言わないで貰いたい

そして仁王君がため息を吐きながら説明を開始した

そして自分の予想が当たる

丸「猫ごときに命張ってんじゃねーよ」

『子猫だって生きています。自分の部屋の中で怪我をするだけで心配になります』

丸「...あ、ちょ、わ、わりぃ...」

『いえ、分かって頂ければ結構です』

少し口調が強くなってしまった

だが後悔はしていない

柳「それでも、自分の身を守らねば、守られた側も気が気でない」

『その通りです、分かっていました』

真「白川。お前は1人の人間だ。代わりなんていないんだぞ」

『...人間、そう呼んで貰ったのは久しぶりですね』

柳生「私達はあなたの事が心配です。すぐに無茶をしますし、甘えを知らないのですか?」

『甘えとは何ですか?それに、自分は甘えていい立場ではないのです。ただでさえ...』

ジャ「ただでさえ?」

『......』

ただでさえ...なんだ?

僕は何が言いたい?

何か、何かが、頭の中で...


「氷月っ!」


「やめてっ!」


ドクリと心臓が嫌な音を立てた

今目の前に浮かんだ光景

男性と女性が怯えた表情をしながら後ずさり、此方を見ていた

あれ?なんだこれ?一体何?

やっぱり頭を打って可笑しくなっているんだ

仁「氷月?」

肩を揺さぶられた

顔を上げれば仁王君が心配そうな表情をしている

『すいません、今日は休みます』

彼の手を払いのけ、部室を出て行った

可笑しい、確実に可笑しい

どうしてなんだ

どうしてそんな夢の光景が見えたんだ

あの人達は誰?あの人は何に怯えていたの?

僕は誰の記憶や妄想を想像しんだ?

最近、ドラマなんて見ていない

かと言ってニュースは見ているがそんな光景を強く想像してしまうような内容はない

では、何処で?

CMでそんな物も取り扱わないだろう

胸の中に何かが入り混じんでいく

なんだこれは?何なんだこれは?

思い出そうとする度にドクリ、ドクリと嫌な鼓動が響き渡る

体が「やめろ、それ以上はやめるんだ」と言っているようだ

でも思い出さなければならないと思っている

なんだ、なんだこの矛盾は?

イライラするよりも、何処か悲しくなっていく

油断すれば何かがこぼれそうな

そんな、感じが...

?「氷月っ!」

『!』

後ろから急に腕を引っ張られた僕はそのまま体が後ろに傾いた

地面に接触するのだろうと思ったけど、何時まで経っても来ない

その代わり誰かに持たれているような

?「氷月っ!」

『に、おう、君...?』

真上から悲痛な叫び声のようなものが聞こえ、見上げれば

額に汗を掻き、焦った表情を零している彼がいた

仁「何を考えとるんじゃ!今は赤信号じゃ!」

『しん、ごう?』

前を見れば交差点の信号だった

渡る予定だった横断歩道は赤信号で、目の前の道路では車が左右に進んでいた

僕は、一体、何を

仁「落ち着いたか?」

『あ、え、ええ』

仁「はぁー...、ならええ」

持たれていたのは仁王君の体だったようだ

一気に襲い掛かる体への疲労感

思い出したように出る荒い呼吸

一体、本当に僕は何をしていたんだ?

仁「氷月、付き合って貰うナリ」

『...分かりました。あの、手は?』

仁「お前さんがまた勝手に何処かへ行かんように、じゃ。文句は言わせんぜよ」

そのまま手を繋がれたまま、青になった横断歩道を彼は進んで行く

分からない、何故彼らは僕の事を心配するんだ

半年前にあったただの、ただの...

どうしても先が言えない、なんで?
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