大好きな... old

□新しい春
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時間が経つのは早いものだ

気づいたら携帯が震えておりそれを手にしてアラームを切った

辺りもすっかり明るくなり僕の目には少しだけ支障が出るが問題ないだろう

音楽プレイヤーを切ってからイヤホンを本体から外してブレザーのポケットにしまった

読んでいた本に栞を挟んでから丁寧に折れ曲がらないように鞄に入れた

ベンチから立ち上がり手に鞄を持って昇降口に向かう

誰かが此方に近づいてくる気配がある

僕は逃げるようにしてその場を立ち去ろうとするが

?「なんじゃ、先客がおったんか」

『......』

視界に入ったのは僕と一緒の銀髪の男の子

顔を整っており体系もそこそこいい

男子にしてみれば少し細すぎるような気もするが

彼は僕の顔を視界に捉えると目を離さない

僕も自然と足が止まり彼と向き合う形になった

10歩、いや15歩だろうか

そのくらい歩けば彼とぶつかる距離

遠くもない近くもない中途半端な距離だった

?「お前さん、新入生か?」

『はい』

?「そうか」

『...時間ですので行きます』

彼との会話はすぐに終わった

僕は彼の隣をすり抜けるように通り過ぎた






仁王sid

幸村と柳生からわざわざ電話で起こされ

まだまだ眠い眼を擦りながら学校へ向かう

通学路には俺と同じ真新しい制服を身に纏う新入生が正門から昇降口へと向かっておる

クラス発表にはまだ時間があるのう

他のメンバーを探そうにも人の壁が厚く中に昇降口まで行けんし

「あ、仁王君だよ!」

「ほんとだ!仁王くーん!」

「仁王君!!」

仁「やべ...」

顔も知らん女子に手を振られたかと思えば此方に近寄ってくる

自分で言うのも何じゃが

俺は女子に人気らしい

それ故に見かけたらよく女が近づいてくる

女は嫌いじゃ

化粧は濃いし香水は鼻にくる異臭っぽいからのう

しかも腹の中では人の奪い合いを繰り返し

勝手に俺の所有権を決めておるからな

俺は朝からの面倒事を避けるために校舎の裏へと逃げた



仁「此処までは来んじゃろうな」

自然と静かに、物音を立てんようにし

気配を殺して裏へとやってきた

道中人数が増えて行ったが

俺も運動部じゃ、足と体力には自身があるぜよ

少し余裕が出来た俺はそのまま裏の大きな桜を見に行く

昔、誰かと満開の桜を見に行く約束をしておったのを

毎年この時期になって思い出す

じゃが、誰と何時、何処で交わした約束なのかわから...?

桜の木の下には俺と同じ服装をし

時期外れの黒いマフラーをつけておるヤツがおった

ソイツはちょうど俺の方向に向いて歩いておる最中じゃった

仁「お前さん、新入生か?」

?「はい」

......

何故じゃろう、コイツ

表情は無く氷のように冷たく

吸い込まれそうな綺麗な青い瞳は

絶望色に染まっておった

何を考えておるのかわからんソイツは俺を視界に入れるなりそのまま立ち止まった

仁「そうか」

?「...時間ですので行きます」

ソイツは空の言葉を発してから俺の隣を通り過ぎた

すぐ隣を通り過ぎたのにも関わらず

俺は何故か動けんかった

絶望に満ちたあの眼の裏には

何もかも見通せるのではないじゃろうかと思うくらいに俺を見ておった

それに俺は恐怖を覚え、ヤツの足音が聞こえなくなるまでは動けんかった



仁「なんじゃ、今年は幸村と同じなんか」

幸「そうだね、仁王。俺が居る限り真面目に授業を受けるんだね」

仁「...善処するぜよ」

クラスで一緒になったんは幸村じゃった

なんじゃ、なんで幸村なんじゃ

廊下へ出て入学式の会場となる体育館へ向かう最中

さっきの銀髪がおった

黒いマフラーはなく波に乗って体育館に向かって行くようじゃ

幸「気になる子かい?」

仁「ちょっとな」

隣を歩いておる幸村は「ふーん」と言いながらソイツを見ておった

ソイツは俺達の視線に気づいたんか

一瞬、目があった

不思議な感じを放っておるのに

ソイツの周りには誰も居らんければ、気づいていないようじゃ

いつの間にか外されておった視線に

ソイツはまるで消えたかのように姿を消して居った
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