世界が違う

□見えないトリガー
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嵐山sid



現場撮影を終えて、夜の防衛任務のために隊全員で食堂まで移動する

佐鳥「あー、今日も頑張ったなー」

木虎「佐鳥先輩はそこまで活躍なんてなかったじゃないですか」

佐鳥「木虎さん?なんで八つ当たりを俺が貰ってるの?」

木虎は氷月さんと戦って以来、よく氷月さんと模擬戦をする

結果は惨敗で、良い所まで行っても簡単にひっくり返される事でイライラしていた

綾辻「まあまあ藍ちゃんも。あの方は5年も向こうで過ごしているんだから、強いのは当たり前よ」

木虎「そ、そうですけど...」

力のつけ方に文句は言ってない

木虎が許せないのは小馬鹿にされている事だ

木虎の性格上、年上には舐められなくないからな

嵐山「木虎、氷月さんには一筋縄では行かないから勝てないのはしょうがない。けど、努力はいつか報われるぞ」

木虎「嵐山先輩、ありがとうございます」

時枝「嵐山さん、前」

嵐山「?」

充の言葉に向けていた視線を前に向ければ

誰かに誰かがおぶさっていた

嵐山「すいません、大丈夫ですか?」

何時ものように隊全員で駆け寄り、その人物を見る

『ぬ?お、嵐山隊勢揃いじゃな』

その人物は三輪を背負った氷月さんだった

嵐山「どうしたんですか?三輪は」

『ただの寝不足じゃよ。一緒に駄弁っておったらいつの間にか寝ておったから隊室よりも医務室の方がええと思ってな。絶賛、お届け中じゃ』

前の迅のような貼り付けた笑みのまま、ずり落ちそうな三輪を背負い直す

『嵐山隊は何処に行くんじゃ?』

時枝「夜の防衛任務のために今から食堂でご飯を食べる所です」

『ほ〜、仲がええのう、羨ましいな』

佐鳥「白川さんもどう?一緒に」

『我は修二を医務室に届けんといかんし、この後は忍田本部長に呼ばれておるからな。折角の誘いじゃが、今回はパスじゃ』

嵐山「そうか、皆は先に行って食べててくれ。俺は三輪を医務室まで届ける」

木虎「分かりました」

綾辻「席は取っておくから、なるべく早くね」

『すまんな、准』

背負われている三輪を俺の背に乗せ、氷月さんは肩を回す

もしかして、生身?



皆と別れて氷月さんと歩いて医務室へ向かう

エレベーターで1つ下の階に降りて同じ景色を見ながら進む

三輪の目の下には深い隈が出来ており

また夢見が良くなかったのだろうな

そして何よりも、氷月さんの事だ

何かまた、隠しているに違いない

嵐山「氷月さん、せめて迅だけにでも話さないと怒りますよ」

『急な話じゃな。それはお前さんか?悠一か?』

嵐山「どちらもです」

『そうか』

ヘラヘラと笑っている表情を崩し、少し儚げに微笑んでいる

その目は一体、何が見えているのだろうか?

『すまんが、それは出来ん』

嵐山「どうしてですか?」

『我が弱虫で臆病者じゃから』

嵐山「?」

氷月さんが弱虫で臆病者?

『我は、悠一のために生きたる。じゃからこそ、死なんよ。多分な』

医務室の前にたどり着くと、氷月さんはそんな事を言って

『死んだら恨んでも構わん。じゃが、後悔だけはしんでくれな』

嵐山「待って!氷月さん!!」

まるで遺言のように聞こえた最後の一言

しかし、氷月さんは忍田本部長に呼ばれているため

俺に背を向けて階段の方へ行ってしまった



医師「軽い寝不足ですね」

嵐山「そうですか。よかった」

白いベットに青い顔をした三輪が眠っている

綾辻へ三輪隊のオペの子に言うようにメールもした

三輪は氷月さんとどんな話をしたのだろうか?

氷月さんは他にも話した人はいるのだろうか?

俺はあの会議を聞いてから氷月さんが気になってしょうがない

医師へ三輪を預け、階段で1つ階を上り待たせている食堂へ速足で向かった

氷月さんは何を考えているの分からない

その表情からも、話からも全く分からない

昔と変わらないのに、過去の姿よりも人間らしく弱く見えるのは何故だろうか?

あの話を聞く前からずっと思っていた

供給器官が壊れているから?

トリガーが変わったから?

氷月さんについて考えると解決する訳もない疑問がドンドンと湧いてくる

会議をしている時の迅の顔を

俺は忘れない

氷月さんが死ぬ未来が視えて、それを話している時

今までにないくらい、とても泣きそうな顔をしていた

未来の視える迅は辛いはずだ

視たくもない物を勝手に視せられて

受け入れたくもない未来を受け入れなくては行けない

小さい時からあったその副作用

きっと何度も何度も苦しい思いをしてきたはずだ

俺は氷月さんに生きてほしい

戦闘員でなくてもいいから、あの人は心の底から

ただただ、笑ってほしんだ
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