僕はただのモブキャラなんだ

□01.逸材を発見したかもしれない
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柳「...なるほど」

柳は考える

「お遊び程度のテニスをやっていた」と言う言葉に疑問符を浮かべ

綺麗なフォームから良いインパクト音と共に、自分の顔の横をノーバウンドで通り過ぎた球

『あ、ごめん。大丈夫?下手で本当に申し訳ない。次からも気を付けるけど、本当に当たったらすまない』

申し訳なさそうな表情と共に声を掛けられ

柳「大丈夫だ。俺もそこまで軟ではない。それに良い球だったぞ」

『おぉー、なんか褒められた。不思議だな』

さして「いつも通りに打ちました」と言わんばかりに感情の読めない声と表情

「初心者程度」?「お遊び程度」?

見たらわかる

彼は「経験者」

しかも、かなり上の部類の「経験者」だ

だが大きな大会で彼の名を聞いた事もなければ

噂話を聞いた事もない

風紀委員の名簿にも中学での部活動は「帰宅部」と記載されており

高校の先生が中学の先生に問い合わせを送った所、実際に「帰宅部」と返信が来ただけ

『打っていいの?』

柳「...ああ、構わない」

考え事をしていた柳は相手の動きを見るのが遅れ

慌てて構え直し、一呼吸して、気持ちを落ち着かせる

そうしていつもの自分に戻る

相手の動きを見て、相手の行動パターンを予測し、確定させる

それが、柳のデータテニス

白川のテニスボールには少しの回転が掛けられながら、高く上がる

綺麗なフォームから振り下ろされるラケットは、戸惑いや緊張はなく、また興奮している訳でもない

あくまでも冷静に、確実に、慎重に

それだけが伺えた

パコンッ!と先ほどまでより良い音を出したラケット

ボールはあっさりとネットを越えると、柳の前でバウンド

柳はそれを打ち返すも、白川の立っている方向とは逆を突く

白川はいつもの打ち合いを楽しむように走り出し、普通に捉えては柳の足元に向けて正確に打った

正確に打たれたボールは上手く柳の足元に深く入り込み、股の間を抜いた

『当たってない?大丈夫?』

柳「ああ、なんともない。しかし白川」

『何?』

柳「お前は本当に「初心者」か?」

『そうだよ?授業で習ってもないし、テニススクールとかも行ってないし。本当に家族や友達と遊んだ程度だよ』

表情を見れば分かる、彼は簡単に嘘をつける程のつまらない人間ではない

柳は瞬時に判断し、小さな結論に至った

「自覚症状がない」



授業が終わり、教室を出ていく白川を見る柳

普通に廊下を歩き、自分よりはるかに小さい背の彼の肩に手を置いた

『!、ビックリした。どうしました?』

肩に置いた手を瞬時に振り払った白川は柳から数歩離れ、振り返る

柳「今週の土曜日、予定は空いているか?」

『土曜日?うーん、午前は暇だけど、午後は忙しい』

柳「何処かへ行くのか?」

『うん』

柳「同行しても良いか?」

『いいけど、つまんないよ。君にとって』

柳「その辺りは気にしなくていい」

『ならいいよ』

柳「午前はいつから暇だ?」

『そうだね。僕は休日だと10時くらいに起きるから、10時半〜11時の間でいいよ。昼食、用意しておくよ』

意外な言葉にかなりのデータが取れると踏んだ柳は、昼食を作ってもらう代わりに

夜は自宅へ招待し、帰りは送ると言う

だが白川はどちらも遠慮すると、学校から帰って行った



2日後、金曜日の体育の授業は雨で武道場へと行き

軽いランニングや筋トレ等を行う

腕立て伏せ、腹筋、ツイストクランチ等々

今が高校生の彼らが筋肉をつけるいいチャンスだと言わんばかりに

体育の先生は筋トレを押してくる

その結果、授業の途中で普通にダウンしている者が多数だ

そんな中、運動部の中でも僅かな人数が残っており

女子生徒は目をハートにしながら黄色い声で応援している

『...うるさ』

武道館の端っこで誰にもばれない程度に筋トレしていた白川は気分をかなり害されていた

柳「お前は此処でしていたのか?」

いつもの2人を連れて柳がやってくる

柳は白川を見ると多少の汗を掻いている程度に目をやる

真田「此処では床が固いだろ。こっちへ来てやらないか?」

『悪いけどお断りする。誰かに注目されたりするのは嫌いなんだ。それに今、イライラしているから誰かに当たると思う』

柳生「ああ、この声援ですか?」

『君たちみたいに大人じゃないんだ。僕は』

話しかけるな、そのオーラと共に筋トレを再開する白川

柳「家で筋トレでもしているのか?」

『なんで?』

柳「慣れているように見える」

『やってるよ。時間つぶし程度に』

柳「ほう」

一般人を装った別の人種を見つけた柳は相手のデータが単純に欲しくなった

今までは興味のない人でも差支えがない程度に把握していたが、それでもこの人物だけは細かな所まで知りたいと思う

『あ、そうだ。明日なんだけど、ついてくるならジャージ持ってきた方がいいよ。屋内だけど身体を動かすからね。君の興味があるならやってみるといいよ。僕にとっては楽しいけどね』

課題の数を終えた白川は体育教師の元へ報告に行く

その後ろ姿を3人は見ていた
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