世界が違う

□待ち人
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青緑のボディに黒いライン1本張り込んだがジャージと明るい茶髪の髪が風に揺れる

ジャージの腕には「BORDER」と書かれてある証があった

警戒区域にある今では使われいないビルの屋上

その人物は胡坐を掻き、ボーダー基地を見ながら「ぼんち揚げ」と書かれてある歌舞伎揚げを頬張っていた

彼は殆ど毎日通っていると言っても過言ではない場所の1つで

任務のない非番の日は此処に1時間は滞在する

迅「今日も来ない、か...」

迅悠一は何時も此処に来ては誰かを待っていた

特に待ち合わせをしている場所ではない

けど、迅には此処で待つ理由があった

ボーダー基地が完成して今年で3年

その間の人生の中で迅悠一と言う人物は色々なものを失った

家族、師匠、恋人

その中でも一番堪えたのは恋人であった

家族の場合は自分が小さい頃になくなっており今では記憶が曖昧で

師匠とは家族を失ってからの父親代わりとして見ていた

しかし恋人との思い出は少ない

少ないからこそ、迅は大切ではないかと思ってしまっていた

迅「行くか」

重い腰を持ち上げ迅の手の中には空になったぼんち揚げの袋が握られていた

小さく折りたたんでは胸の内ポケットにいれる

周りも見ても特に変化が見られない風景と、長年待っている恋人に会えずにため息を零した

迅「生きている、よね...」

不安になるのも仕方がない

此処で待ち続けてもう2年半も時が過ぎていたからだ

?「おーい、じーん!」

迅「?」

ビルの下から聞きなれた声が聞こえ、下を見た

そこには真っ黒な隊服が特徴の太刀川慶が迅に向かって手を振っていた

迅はそこに向かってグラスホッパーを使いながら降りると、太刀川が近寄ってきた

太刀川「毎回此処で何をしてんだ?」

迅「ん?恋人待ってんの」

太刀川「恋人?...あー、分かった。すまん」

迅「いいよ、別にね」

聞いてはいけない事を言ってしまった、とやらかしてしまった事に後悔をしている太刀川に

迅は素気なく返す

太刀川「あの人が簡単にくたばるような人に見えるか?俺は見えないね」

迅「俺もだよ。何時もマイペースなあの人は」

太刀川「だったら何時もの笑顔で帰ってくるだろう?」

迅「それでも俺は待ちたいの。一番最初に俺を見てほしいからね」

太刀川「ふーん」

貼り付けた笑みが定着し始めた迅の笑顔に

太刀川は少しだけ不安を覚えた

ただでさえ自身の持っている副作用に人生を左右され、上からの信頼が厚いとは言え

これ以上は見ていられなかった

しかし、そんな今の迅を変えれるのは

あの日、迅に手を伸ばした彼女だけであり

迅が唯一心を全開に出来るボーダー最強の彼女だ

太刀川「そう言えば、声は大丈夫か?」

迅「声?ああ、大丈夫だよ。あの日からちゃんと出ているからね」

太刀川「ショック療法?」

迅「...それはそれで俺は最低な人間だよ」

太刀川「すまん」

太刀川から本日2度目の「すまん」を聞いた迅は少しだけ調子が狂った

何時もはダメダメの太刀川さんが人の心を読んで素直に謝ってくれる

こんな後ろめたさ100%出している情けない迅を支えてくれようとしているのだ

迅は困ったように微笑んだ

太刀川「詫びにランク戦してやるよ」

迅「それ、太刀川さんがしたいだけじゃん」

太刀川「いいじゃん、もう1年もしてないんだぜ。内緒ならバレないって」

迅「忍田さんがいる場所で堂々とやるもんだよ。監視カメラは何時でも作動しているんだから」

太刀川「えー、やりたいなー」

戦闘狂の太刀川は今すぐにでもこの目の前にいる迅と戦闘がしたかった

迅は師匠である黒トリガー争奪戦を圧倒的優位に勝ち抜き

腰のホルダーにはそれが証拠としてぶら下がっている

黒トリガーに選ばれたものは自然とS級となった

黒トリガーを持つ者は普通のトリガーとの力の差が激しいために

他の人との戦闘が出来なくなる

当時A級だった迅は同じくA級の太刀川とライバル同士であり

互いが互いに満足する相手だと今では完全に理解していた

太刀川「...氷月さんは戻ってくる。これは俺の中での確定事項だ」

迅「俺もね」

白川氷月

当時は最強としてボーダー内に知らない者はいなかった

何時もお気楽マイペースで戦闘の時もヘラヘラしている

不思議な方言と相手をよく見る事から、彼らは甘えていた

迅もその1人できっと一番に甘えていたのだと思う

家族を失った迅に師匠である最上さんが手を差し伸べ

その人も黒トリガーとなってしまえば支えなんてなくなってしまった

だからこそ迅は氷月に甘えていた

暖かい体、綺麗な髪、優しい声音、甘い香り

それらが迅を安心させていた
 

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