世界が違う

□家族
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迅sid



迅「行ってきまーす!」

母「いってらっしゃい」

あの時の俺は不安でいっぱいだった

訳の分からない人の未来映像が勝手に頭の中に流れると思ったら

その人は本当に映像通りになっていくし

同級生の自転車のブレーキが掛からない事を知って注意したら

それを知っていた事を不気味がられた

正直、学校なんて行きたくない

また白い目で見られて、虐めにはあってないけど

他の子よりも距離感が大きいから



学校の授業を何となく聞き流しながら外を見る

すると外は朝に出て来たよりも曇天で太陽なんて何処にもなかった

最近夢にまで出て来るようになった白い大きな化け物

ソイツは現れたのと同時に人々を食べて行く

俺の母さんはその化け物が現れた衝撃で瓦礫の下敷きになって死ぬ

それらが分かっていてもそれが何時か分からない



学校のチャイムと共に学校を出る

友達も何をいない学校なんかで長居をしたくなくて何時も飛び出すようにして帰る

今日もそのはずだった

迅「!」

ズドンッ!と大きな物音が聞こえたかと思えば空中には大きな黒い球が浮かび

その中から白い大きな化け物が出て来る

迅「母さんっ!」

白い化け物を横目に流しながら帰路を走って

最後の曲がり角を曲がり終えると、家の方から大きな砂埃が上がった

小さい体で走るも乱れ切った呼吸は苦しく、恐怖で足が重くなる

着いた時には遅かった

それが一番しっくりくる言葉

母さんは家の瓦礫の下敷きなっていた

上半身を外に出し、下半身が完全に埋もれていた

迅「かあ、さん...」

ドスドスと近づいてくる音よりも

自分の心臓が嫌な音が大きくて周りが見えなくなっていく

近づくとその手は冷たく、体から赤い生ぬるい血が流れていた

雨が降ってくるとさらにその血は流れ、俺の体温も奪っていく

暗い夕方、されど太陽は多少出ていたようで

俺に覆い被さるようにしてその化け物は俺のすぐ横にいた

4本の短足と大きな胴体、長い首には目はあらず耳のような物が頭から突き刺さるようにしてあって

その大きな口の中には大きな目玉がギョロリと此方を捉えた

あの時の俺はどうでもよかったんだろう

あの化け物を見たとき、普通は怖がるし怯えると思う

そして「逃げなくては」と言う危機感があったり、大きな恐怖で腰を抜かして動けなくなったりと

そう言った何かしらの事があっただろう

けれど違った

俺は動きたくなかった

どうせ家族も守れない俺なんて存在価値がないと思ったらから

此処で母さんと一緒に逝けるのであれば

母「悠一...!」

迅「母さん!」

死んだと思った母さんの声が聞こえた

顔をそちらに向ければ額から血を流した母さんが青白い肌と紫色の唇が動いていた

母「逃げなさい!あなただけでも...!」

迅「嫌だ!母さん!!」

動かなかった体は嘘のように動き出し、その瓦礫を手作業で掘っていた

爪は割れるし、ガラスの破片で指を切ろうとも

唯一の家族である母親を助けたい気持ちでいっぱいで

隣にいる化け物の事なんてすっかり忘れていた

母「お願い、逃げて、悠一!あなただけでも生きて!」

迅「嫌だ、母さんがいない日なんて嫌だ!」

近づいてくる化け物なんて気にしなかった

けど

?「何しておるんじゃ?ガキンチョ」

迅「...!」

母「あな、たは...」

化け物はあっけなく縦に真っ二つとなった

その化け物だった上には黒いマントをなびかせ、黒いフードを深く被った1人の人がいた

その人は上から降りてくると俺の横に立った

俺はハッとして思い出す

迅「母さんを!母さんを助けてっ!!」

その人の服にしがみつきながら、子供の出来る事をやった

血まみれの手でその服と出来るだけ強く握った

?「...出来る限りはしちゃる、待っとき」

その人はマントを俺に被せると瓦礫を撤去する作業に入った

あの人の後姿はよく覚えていた

鮮やかな青いジャージと黒いズボン

水色の長い髪を1つに束ねてあって

その青いジャージの袖は「BORDER」と書かれてあった

マントからはきっとあの人の匂いと温もりがあって、俺はこれだけ冷えていたのかと実感した

やがて瓦礫が取り払われると殆ど下半身のない母さんが出てくる

俺は恐る恐る近づいて母さんの手を取る

酷く冷たく固かったのをよく覚えている

迅「母さん...」

目からは涙が零れた

母「悠一、助かったのね。よかった」

母さんは最後の力を振り絞るようにして俺の頭を撫でた

やっぱり何時もと違った感触だ

母「どうか悠一を、お願いします」

母さんは助けてくれた人にそう言うと瞼を下した

それと同時に腕も落ち、小さな水溜りにパシャリと音を立てた
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