世界が違う

□後ろ姿に手を伸ばす
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太刀川sid



ようやくガキンチョ呼ばわりが終わったかと思えば、白川さんは毎日のように模擬戦をしてくれる事になった

憧れていた人と毎日のように時間を忘れて楽しむ事が出来る

ボーダーが作った緊急脱出ができ、旧型よりもいくらかパワーアップしたトリオン体での行動はまだまだ覚束ない

それでも俺は10本中1本が取れるかどうかの試合を繰り広げては

白川さんの実力を思い知った

『お前さんもこりんな。毎日やられたら嫌にならんか?』

太刀川「えーそうかな?俺は憧れの人と模擬戦出来て楽しいですよ」

『お気楽じゃな。慶は』

名前を呼ばれる事にこれだけ嬉しいと思った事はない

忍田さんに呼ばれても家族に呼ばれても

やっぱり憧れの強さはすげーな

『憧れか...』

食堂でコーヒーカップに手を付ける白川さんは俺から視線を外して俺の後ろの席に座る迅の後頭部を見ていた

ある日から突然、迅と白川さんの関係が変わった

迅は依存していたかのように毎日白川さんの事を考え、戻って来た時は片時も離れる事がなければ

迅の視界から白川さんの姿を失った事はない

なのに、今となっては迅がまるで白川さんを拒絶しているように見える

2人は玉狛で寝泊まりをしているし、何があったのか分からないけど

なんでだろう、白川さんを独り占めしているのに嬉しくない

太刀川「なんかあったんですか?迅と」

『ん?何にもなかと。我は何時も通りじゃ』

そう、何時も通り無理に笑っている

けどその笑顔も何時も以上に苦しそうに笑っているから不安になる

あなたは何を隠しているんですか?

『なあ、慶』

太刀川「はい」

『我が、トリガーを手放すと言ったらどうする?』

太刀川「!」

白川さんの言葉と同時に、後ろから大きな音が聞こえた

ダンッ!と机を叩く音が聞こえれば、ブーツの音が遠ざかって行く

やっぱり、何かあったんだな

『気にすんな。我はの質問に答えてほしいぞよ』

太刀川「答えたら、俺の質問にも答えてくれますか?」

『質問内容にもよるけどな』

カップの中にあった残りのコーヒーを飲み干すと、青い瞳は俺の目を見ていた

太刀川「俺は全力で反対しますよ。白川さん強いし、トリガーを手放すくらいだったら前線やめて後ろで後輩の指導とかしてほしい」

『なんでじゃ?我は5年もの間近界におった。スパイかもしれんし、裏切りの行為だって見えるかもしれん』

え?何言ってんの、この人

『我が本物だって言う証拠もなかよ。クローンの可能性じゃってある。日本とは違う技術の発展で医療関係にも対応出来る改造されておるかもしれん』

なあ、待ってくれよ

『我が我じゃと言う証拠は何処にもなか。そして今の我はトリガーを手放そうとし、お前さんらの期待を無に帰す事になる』

その長い台詞ってさ

『それでも、お前さんは、慶は。我にトリガーを握らせるか?』

太刀川「ふざけんなっっ!!」

『......』

勢いよく白川さんの胸倉を掴んだ

自分を此処まで完全に否定して、あわよくば何かから逃げているような感じがする

違う、俺が知っている白川さんじゃない

太刀川「確かにあんたの言う通りだよ!俺はあんたのそんな姿を知らない!けどっ!」

『けど?』

太刀川「けど、俺はあんたの戦闘の仕方もしぐさも知ってる!迅よりは知らないけど、剣を交えたあの時の感覚は白川さんそのものだ!」

『それで?』

太刀川「クローンでも戦闘経験が少なければあんな気迫もない!俺は全身であんたと戦ったんだ!」

一気に言い終えれば力んだ体から力が抜けた

荒い呼吸を整えるように自分に「落ち着け」と命令しては白川さんを睨んだ

俺は知らない、そんなに弱いあんたの姿なんて知らないんだ

『...すまんかったな。今の言葉は忘れてくれ』

カップを持った白川さんは此処か離れて行く

太刀川「...迅にも、同じ事を聞いたんですか?」

『...聞いとらんよ。今の話は慶だけじゃ』

小さくなっていくその後姿に俺の中はぐちゃぐちゃになる

きっと近界で何かがあって自分を大きく攻めているんだろう

それでなくとも人は1人は弱いと聞いた事あるし

太刀川「え...あ...」

1人

そうだ

5年もの間、白川さんは1人だったんだ

忘れていた

迅が毎日のように隣を歩いているから忘れていた

あの人はずっと1人だったんだ

あの背中捕まえないといけないのに

体が言う事を聞いてくれなかった
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