世界が違う
□いつも通りとは言わない
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太刀川sid
『うぃ〜、今日は太刀川隊じゃけんね〜』
出水「お!白川さんだ!」
国近「やったー、白川さんだーー!!」
『うぉっと...』
氷月さんの退院から2週間
夏休みに入った俺の隊室には珍しく全員が居座っては伸び伸びとしている
そんな中、今日の防衛任務で来てくれる助っ人の氷月さんが隊室に遊びに来た
隊室に入って10秒後、ゲームをしていた国近がゲームを手放して正面から飛びつき
氷月さんはよろけながらもしっかりと受け止めた
あんたはイケメンだ、最高のイケメンだ
国近「あー、白川さん好きー」
『おーおー、そうかそうか。それは嬉しいぞよ』
国近「本当に?」
『そうじゃよ』
国近「やったー!!」
なのに、俺は、あんたの事が
嫌いになりそうだ
あの言葉が、頭から離れない
『トリオン消費が激しい分、我の場合はトリオンの回復能力も高かったようじゃ。それの繰り返しにより器官に罅が入り、生身に悪影響を与えておったんじゃ』
俺は、あんたに長生きしてほしい
守って貰った恩も、叶えてくれた希望も
全部、あんたから貰ってばかりだ
強くなった俺を見てほしい
憧れの戦闘スタイルを真似して、憧れの強さを手に入れたのに
あんたの気分次第で俺の勝敗が決まるなんて、悔しい
まだトリガーを握ってほしい
一緒に戦ってほしい
俺はあんたを、守りたいのに
『...どうした?慶』
太刀川「!」
優しい表情で微笑んで、大好きな人から名前を呼んでもらうだけで
こんなにも、胸が高鳴る
出水「どうしたんすか?太刀川さん」
『ああ、なるほど。あの時の言葉に怒っておるのか?』
太刀川「当たりまえだ!俺が勝ち越すまでトリガーを離す事なんて許さない!」
『...お、おう。とりあえず、分かったぞよ』
国近「どうしたんですか?喧嘩ですか?」
『うーん、まあ、きっと「悔しい」んじゃろうな。な?』
太刀川「...そうです」
『うん、まだまだ生意気なガキンチョじゃ』
唯衣「あー!また知らない人が!む、むむむっ!そのエンブレムは玉狛だな!」
大遅刻の唯衣が隊室に入ってこれば、これまた騒がしくなる
国近「てか白川さんって迅さんと同じ衣服設定って聞きましたよー」
『おん、とりあえず悠一からその格好でって言われたんじゃよ。特に選ぶ服装もなかったからこれでええと思っておるよ』
唯衣「僕を無視するとは良い度胸ですね!こう見えても僕はA級1位の太刀川隊射手の...」
「トリオン供給器官破損、唯衣、ダウン」
「伝達系切断、唯衣、ダウン」
「戦闘体活動限界、唯衣、ダウン」
唯衣「すいませんでした...」
『驚きの弱さ』
出水「まあ、似非A級なんで。こんな弱いヤツと戦闘させて本当にすいません」
『ええよええよ。ちとウォーミングアップには足らんけどな』
唯衣「ひいいぃぃっ!!」
あまりもの五月蠅い唯衣の首根っこを掴んだ出水は、隊室の奥にある訓練場に連れて行き氷月さんとの10本勝負
結果は分かり切っているが、5分と掛からなかった
『出水君、やるかい?防衛任務前のウォーミングアップ』
出水「いいんですか!?」
『ええよー。国近さん、準備ええか?』
国近「何時でもどうぞー」
出水と氷月さんが訓練室に入る
俺はそれを静かに見守ってから国近の背後でディスプレイを見た
国近「太刀川さん、今日は大人しいですね」
太刀川「まあ、な」
国近「喧嘩、何が原因なんですか?」
太刀川「...言えねーよ」
国近「...まあ、いいですけどね。でも白川さん、太刀川さんの事結構可愛がってたんですね」
太刀川「は?」
ヘッドフォンをつけてディプレイを見ていた国近は俺の顔を真剣に見つめる
怒ったような、それでいて悲しそうな表情だ
国近「太刀川さんが強くなった事に喜んでました」
太刀川「だから、なんだって...」
国近「白川さんは言ってました。今も昔も変わらない太刀川さんが羨ましいと」
太刀川「......」
国近「私、初めて白川さんに会った時、とても心地いい感じがしたよ。甘えても許してくれて、悲しい事があったら慰めて貰えて、怒った時は宥めてくれて、楽しい話をしっかいと聞いてくれる。母親とは違うけど、でも、お姉さんみたいに感じました」
太刀川「国近?」
国近「太刀川さんが何に怒っているのか分からないけど、きっと白川さんに関して許せない事があったんですよね?だったら、しっかりと話をしてください。白川さんは絶対に話を聞いてくれますから」
安心を覚えたのは当たり前だ
強くて優しくて、甘えてもいい
俺だって大人になった
精神年齢は?と聞かれれば答えられないけど
でも、大人な対応もしないといけないのは分かってる
隊長として隊の皆を心配させるわけにはいかない
国近の言葉の中の最後
俺はそれを信じてみようと思う
太刀川「分かった。ちゃんとはな...」
『我のトリオン器官はまだ成長しておるよ。慶』
太刀川「!」