世界が違う

□家族って何
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迅sid



氷月さんが玉狛の自室から本部の空き部屋に移り住んで2週間

今日はボスに呼ばれて夜中の10時に玉狛の屋上へと来ていた

迅「遅れました」

林藤「遅かったな、任務か?」

迅「まあ」

林藤「いいや、そこ座れ」

迅「はい」

月で眼鏡が反射してボスの表情も未来も読み取れない

ボスが用意したと思われるパイプ椅子に腰かけると

煙草を取り出して火を付けた

林藤「お前、氷月から「過去」について聞いたか?」

迅「過去、氷月さんの過去は知らないです」

林藤「そう、か。お前たちの仲、中々深まらないの見ててな、俺はちぃーっとばかし不安だ」

迅「それは「今」の氷月さんと何か関係があるんですか?」

林藤「まあな」

肺に入れて吐き出す

ボスは一回人間ドックを体験するべきだ

林藤「氷月の家族はな、あまりいい家庭じゃなかったんだ」

迅「え?」

林藤「何をするにも、家族の中で氷月だけが仲間外れの行動を取っていた」

迅「仲間外れの行動?」

林藤「味の好み、戦闘時の行動、癖、雰囲気、全てが白川家の中でも異端児だったんだ」

迅「全て、ですか?」

林藤「ああ。白川家は濃い味が好きな過程で、母親は少し精神を病んでいたために味の調整が難しかった。父親はその味に慣れてしまったし、先に生まれた兄もそうだ」

待って、お兄さんいたの?

林藤「だが氷月の両親はボーダーで家をよく留守にするし、兄の方が先に生まれたために戦闘員としてボーダーに通っていた事もあり、氷月はよく家に1人でいた」

迅「ごはんとかって...」

林藤「アパートの大家さんから貰っていたんだ。母親の作る料理よりも薄味でな。それに舌が慣れてしまったせいで食文化の違いが生まれた」

迅「戦闘時の行動は?」

林藤「兄は両親の戦闘スタイルを見て育った。妹の氷月は忍田や最上の戦闘スタイルを見て育った」

迅「癖は?」

林藤「白川家は考え事の時、視線を右斜め下に向く、白川は?」

迅「目を細めるだけ」

林藤「だが、最後の雰囲気だけは、大きく変わっていた」

携帯用の灰皿に煙草を入れ、ボスは俺の前にあるもう1つの椅子に座ると腕を組む

迅「前は明るかった、とか?」

林藤「家族の雰囲気は全体的に明るかった。だが、氷月は元から冷静な子で気分の浮き沈みがなかった」

迅「え?」

ヘラヘラと笑っている「今」の氷月さんしか知らないからこそ

俺にとっては衝撃的だ

林藤「あんな風に笑うようになったのは家族が死んでからだ。それよりも前は、しっかりと心の底から笑っていたし、悔しさが重なれば泣いたりもした」

ごくごく普通の、あーボーダーなんてやってるから普通じゃないが、まあ普通の子だったよ、大人しめのな、とボスは大きなため息をした

迅「待ってください。その話を聞いていれば氷月さんはまるで、両親に放置されていたみたいに...」

林藤「氷月の両親が欲しかったのは、1人の子供だけだったんだ」

迅「!」

それじゃぁ、まるで、氷月さんが望まれて生まれた訳じゃ

林藤「俺と城戸さん、忍田に最上さんはその話を聞いて「家族の愛が受けられない」と判断し、向こうが兄を構う分だけ、俺達が氷月を構った」

迅「戦闘や癖などは何となく分かったけど、どうして...!」

林藤「分かったか?」

今の氷月さんがどうしてあんな風に壊れてしまったのか

それは「家族から与えられるはずの愛を知らず」「副作用に悩まされていた」んだ

俺の場合は母親にしっかりと話をしたうえでなんでも面倒を見て貰っていた

だが

林藤「あの時は副作用について知らなかった分、氷月の存在は白川家にとって異端となっていた。知らない過去をを持ち出された両親は氷月の存在を怖がってさらに遠ざけた。それは兄も同じだった。唯一受け入れてくれたのは、拾って来た3匹の猫達だけだ」

迅「誰にも受け入れて貰えず、ならば、遠ざかればいいと、そう言う意味ですね?」
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