世界が違う

□最強は逃げた
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本部から少し離れた場所に、ボーダーのA級隊員が戦闘をただ見ていた

本部の屋上あるいは建物の屋上には狙撃手がその光景を見ており

本部はA級狙撃手である奈良坂の視界を借りていた

白い弧月と緑のトリオンキューブを操る氷月に対し

ナーシャと呼ばれた彼女は無限に剣を出しては攻撃に耐え、一瞬だけ攻撃をすると言う

防戦一方に等しい殺し合いを見ていた

一応黒トリガー使いである空閑もそこにおり、三雲や雨取は迅の付き添いで医務室へと向かった

木崎は考える

あの温厚で掴みどころがない氷月をあそこまで怒らせたのは初めて見たし

そもそも彼女が怒る事なんてないと思っていた

初めて本気で怒っている彼女から重圧があり鋭利な殺気がピリピリと肌を刺激する

彼女との戦場まで1キロはあるのに、殺気はしっかりと此処まで届いていた

そして、門が開き、人型近界民と戦闘して5時間

迅は一命を取り留め、ボーダーと契約している病院へと搬送され

沢村「相手トリオン、消滅を確認しました」

と本部長補佐の沢村からアナウンスが入る

だがA級隊員は動かない

木崎に伝えた事が本当であれば、この場から1歩でも前に前進すれば攻撃を食らう

しかも訳の分からない機械のせいで緊急脱出が出来ない以上

氷月の本気を買って勝てる者は居ない

そして

ナーシャ【なんで?なんであんたはそんなに強いの?なんであんたはそんなに笑っているの!?】

氷月の通信越しに相手の悲痛な叫び声が聞こえる

奈良坂のスコープからは、地面へと大の字に寝ている敵に対し

氷月は白い弧月を1本ゆるく持っては相手の右肩を左足で踏んでいる

【『「ピエロ」だからじゃないか?』】

戦場にそぐわない静かな声で、氷月はぴしゃりと言い放つ

そこの言葉に誰しもが唾を飲み込んだ

ナーシャ【じゃあ何?笑っているのは人殺しが楽しいから?】

【『そうなんじゃないか?私は別に人を殺そうが、逆に殺されようが何とも思わない』】

初めて聞いた方言無しの言い方

普段は張り付けた笑みで場が和む様な方言は何処にもない

まるで、別の氷月が体を乗っ取っているんじゃないかと思うくらいに恐怖が増す

初めて戦った時に感じた緩い印象に、木虎は1歩その場から下がってしまった

ナーシャ【氷月が!あなたが!ピエロが!私の家族を奪って...!】

【『じゃあ、あのままお前を殺した方が良かったのか?』】

ナーシャ【っ!】

【『お前は何も知らなかった。家族の中でお前は姉や両親に着いて行くだけで何も知らなかった。自国を裏切り、敵国に情報ばら撒いたのはお前の家族なんだぞ』】

ナーシャ【なん、て...】

【『お前の家族は敵国から買収されていた。金と命と衣食住を貰うため、自国の情報を敵国へと売り渡していた』】

近界の事なんて知るか、と思っていた三輪には

あの日聞いてしまった氷月の過去に、まるで敵と自分を重ねているみたいだと思った

家族に捨てられたにしろ、家族を殺され自分だけになっても

「子供で1人」と言う孤独が、氷月の中には深い痛みがあったんだと思う

そう思えば、あの日の対応は本当に取り返しのつかない事をしたと後悔をしている

【『何も知らないお前だけだったら生きれると思ったが、残念だな。私はお前を見逃すつもりはない。家族と元に、帰るんだな』】

ナーシャ【いや...、お願い!やめてっ!!!】

次に聞こえたのは爆発音だった

ひときわ目立つ大きな砂埃に、A級隊員は足を踏み出し

戦場へと向かってしまった



太刀川「何も、ない...」

戦場へと急いで駆けつけたのにも関わらず、そこにあったのは巨大なクレーターだけだった

布の切れ端もなければ、本当に何もなくなってしまった

風間「トリオン反応は?」

沢村【...ないわ、何処にも】

戦場から消えた2人

だが、すぐに分かった、1人だけは

双葉「っ!」

加古「双葉?」

クレーターから少し離れた場所には、敵の片腕だけが転がっていた

他には何もない

結論から考え

氷月は濃密なトリオンキューブを出現させ自らの頭上から真下へと解き放った

相手は片腕だけを残して消滅し、氷月はトリオン体であったためにすぐさま逃げたと思ったが

菊地原「機械?」

歌川「え?」

菊地原が見つけた黒い破片

集めてみれば黒い指輪となり、空閑の持っている黒トリガーにソックリだった

だがそれは破壊されているために、氷月が使っていた黒トリガーに違いないと分かったものの

迅がやられ、氷月が本気の殺し合いをして

今日で1週間が経とうとしていた
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