世界が違う

□見つけた安堵
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白川sid



暗闇の中

自分の姿は見えない

目の前のあるはずの手も見えず

広がるのは闇だけ

でもそんな中声が聞こえる

落ち着いた感じの声音で、それでいて必死に呼ぶ声

1つの白い光が見え、反射的にそれを掴んだ

そして

迅「おかえり」

大好きな人が、私を出迎えてくれた

あの日の事は、嘘じゃなかったんだ

あのアパートに迎えに来てくれたあの日は

本当にあった事なんだ

『た、だ、い、ま...』

水分がない口内で絞り出した声は実に見苦しいものだった

だが、そんな掠れた声も、彼には聞こえていた



『うん、今日もええ天気じゃなー』

小南「氷月さん。お婆さんみたい...」

『ほーほっほっほっ。これでええか?』

小南「ごめんなさい...」

退院までには少し時間が掛かったけど

今では玉狛のリビングでトリガーを持たない日が何日も続いている

嬉しいけど、少しだけ不安がある

小南「けど今は氷月さんと2人きりで幸せー」

『ほうかほうか。お前さんは成長すると甘えるのう』

小南「あ、甘えてないもん!」

『ならナデナデしんぞ?』

小南「っ、......してほしいです」

『人間、素直が一番じゃよ』

ソファに座る我の太ももの上

小南のサラサラで艶のある髪が触れた

頭を撫でると小南は幸せそうに頬を緩める

小南「氷月さん。何で2回も居なくなったんですか?」

『......。聞きたいんか?』

小南「え、あ、ごめんなさい...」

唐突に聞こえた現実に

我は少しだけ自分に苛立ちを思い出す

『怖かったから。それでええか?』

小南「怖かった?」

『ああ。怖かったんじゃ。分からんくなる事が、怖かったんじゃよ。それだけじゃけん』

我が5年前に逃げたのは、孤独からじゃった

自ら手放した悠一が次々と人間関係の幅を広めた事による、我自身の孤独感が大きかった

彼には我が必要不可欠じゃと慢心していた

だが見れば彼には我なんか必要ない、レベルではないが

いなくなっても変わらないっと思った

日本の三門市には居場所がなかったと思っていた

その結果、あの近界民の過去を救い、此方との門を遮断する口実で

外の世界へと居場所を作りに行った

だが、どの国に行こうが我の居場所は何処にもなく

我自身の存在が全ての世界から見放されたと思い込み

ならば戦力になろう、と此処に戻ってきた

出水の変化炸裂弾で足元に大穴が開いた時

悠一は迷わず我に手を伸ばしてくれた

その手が救いの手だと思い込んだ我はその手を手繰り寄せ、掴み取ってしまった

そこからは悠一は居場所を作ろうとも、愛を送ろうとも言ってくれて

生きよう、と改めて思った

居場所も愛も何もかもくれる悠一に、あの日手放してしまった罪滅ぼしとして

だが、守れないあの日を知った時

やはり自分は異端児なんだと再確認させられ

悠一を失う恐怖とともに、現実からも逃げ出した

病院で目覚めた時、忍田さんからも林藤さんからも怒られ、城戸さんからは厳しい罰を与えられると完全に思った

その理由が理解出来ているから

だが言い渡された言葉は謝罪と感謝と休息だった

謝罪は大の大人が1人の人間に頼りすぎていた事

感謝は生きて居た事

休息はトリガーを手放し、平和に暮らす事だ

いざ手元から武器が消えると底知れない不安が襲う

だが此処に居れば何も問題はない

帰って来てくれる人がいる、受け入れてくれる家がある、包み込んでくれる温もりもある

全てがあるこの玉狛支部はもう実家の気分を満喫している

小南「今度は絶対に居なくならないでください」

『分かっとるよ』

小南「絶対ですよ。約束です」

『おん、了解じゃけんよ』

?「こーなみ。何人の恋人かっさらてんの?」

小南「じ、迅!?」

『おかえりじゃけんねー』

背もたれから伸びて来た腕は我の胸の上で腕を組む

迅「あれ?驚かないの?」

『ワービックリシター。これでええか?』

迅「うん。薄すぎてもういいや。さあ小南、そこどいて。氷月をちょーだい」

小南「嫌よ!迅なんかには絶対に渡さないんだから!!」

迅「残念だけど、俺達恋人同士だから」

我を挟みながら2人の言い合いは終わらない

『悠一、後でたっぷり甘やかせてやるから、今は小南の番じゃ』

迅「分かったよ。氷月がそう言うならね。でも...」

『?』

迅「(今すっごい嫉妬してるから俺、甘えるだけじゃ物足りないかもね)」

最後は耳打ちでこんな事を言って、玉狛リビングを上機嫌に出て行った

小南「なんだって?」

『ん?小南の意地悪じゃって』

小南「なっ!じーんっ!!!!」
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