世界が違う

□待ちわびた人間
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No sid



暗闇の中、体を重ね終えた男女は同じ布団の中で眠っていた

女性の方は起きるとまだ暗い部屋の中を歩いては床に散乱した衣服を手に取り

女性は男性の顔を見る

そして男性の顔を見るたびに今までにない感情が支配する

「幸せだ」と

迅「ん...」

『...全く』

隣の温もりが消えたと感じた男性迅悠一は空いたスペースへ手を伸ばす

それを見た女性白川氷月は手に取った衣類を足元に捨て、またスペースへと戻る

迅「...いか、ないで...」

迅は氷月の体に腕を回すと、不安な表情と共に素直な言葉を放つ

『いかんよ。もう何処にもいかんよ』

氷月は傍から見れば情けないような男へ、そして自分にもこの言葉を言う

彼女は逃げた

白川氷月は迅悠一と言う人間から逃げていた事を最近になって理解した

氷月は人間が怖かった

日本人だろうと外国人であろうとも、近海民であろうとも

「人間」と言う種族全てが恐ろしく、そして嫌いだった

生まれた間もない頃から家族との距離を感じ、壁で阻まれた生活を繰り返し

ある日突然、それが消えた

あの日、迅悠一と言う男を保護したのは

初めて自分に頼み事をしてくれ、頼られた嬉しさが会っての事

保護すれば彼がもっと自分を頼ってくれるのではないかと言う優越感を感じてしまった

だが現実は甘くなかった

彼の副作用がもたらす「未来」の記憶が

自身の副作用で毎日とは言わないものの、頭が割れるような頭痛を感じていた

頭痛以外は苦を感じなかった

だが彼の「未来」を視ているうちに自身の副作用で他人の「過去」を視て

氷月は恐ろしくなった

「現在」に立っているはずの自分が、目の前の人間の「未来」と「過去」が交差する

彼女は副作用からもたらされた頭痛に加え、精神的な苦痛も味わってしまった

それが故に、迅悠一を最上宗一へと預けた

自身が壊れる前に、彼を遠ざけたかった

そして、彼はこんな自分の近くにいるべきではないと感じてもしまったから

優越感はいつしか、劣等感へと変わっていった

そして彼を手放し、戻った家に残ったのは

酷い孤独感だった

そこからの記憶は一部欠けている

何を食べたのか、何処へ行ったのか、何をしていたのか

最上宗一に預けた迅悠一に会うまでの記憶は殆ど欠落していた

やがて少しずつ会う事により「過去」「現在」「未来」の区別が判断出来るようになった頃には

ボーダーにも世界にも最上宗一の姿は消えており

氷月の中には劣等感は消え去り、何も感じ取れなくなってしまった

だが彼女の中に残されたのは迅悠一への謝罪

此方の都合で勝手に手放してしまった事への謝罪だ

だが氷月は「人間が怖い」と言う事があり、玉狛支部で同居しても、一緒に寝ても

それが言いだせる事がなかった

それらの事を淡々と氷月は誰も起きていない空間へ語りかけた

『だから、ごめんな。ちゃんと作る。お前のために、我の全ての時間を捧げるから』

「だから...」その先の言葉を言う前に、彼女の体は何かと密着した

『!』

迅「ありがとう。ちゃんと話してくれて。俺、今すごく嬉しいよ」

迅悠一は起きていた

彼女がベットから離れた時から意識は覚醒していたのだ

そして彼女の胸の内側に溜まった深い闇を聞き、迅は男としても彼氏としても

白川氷月を守ると胸に誓った

迅「変えられない未来はある。けど、それは誰にも分からない。俺が勝手に判断しているだけなんだ。氷月は俺の確定された未来から回避してくれた。それが証拠だよ」

『確定された未来を、我が回避した?』

迅は話す

木崎を視て、自身が傷つき、白川氷月が敗北し

白川氷月が死ぬ未来が視えていた事を

あれは回避不可能だったはずなのに、彼女はそれを回避してくれた

初めてだった

「失いたくない」と強く思い

「生きてほしい」と強く願った事が叶うなんて

彼はその嬉しさを言葉に出来なかった

だからこそ、彼女が知らないモノを与えようと思った

迅も彼女に尽したかった

命を拾われ、衣食住を与えて貰い、強さに憧れた

それに対して感謝として自らの時間を差し出したかった

迅「欲しい、氷月の時間の全てが欲しい。俺で満たしてあげる。消えた感情も必ず取り戻してあげる」

『我がお前さんから去ったらどうするんじゃ?』

迅「大丈夫、逃げられないから」

『!』

密着した体から小さな振動が互いの胸に響く

それは相手が生きている振動であり、最もな証拠

迅「氷月はもう人肌を知っちゃったから、この温もりを誰よりも手放したくないはずだよ」

『人肌...』

単語事態は知ってるし、意味も知ってる

だがこれが自分を満たしてくれているなんて

『そうだね。私はあなたを手放せそうにない。悠一、私を捕まえて居て。ずっと』

この世の何よりも理解が早かった

迅「うん。ずっと掴んでいてあげるよ」

2人はまた布団の中へと潜り込む

冬の寒さは来たばかり

2人は互いに暖をとって眠るのが

最高の幸せだと、静かに思った
 

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