大好きな... old

□実力
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「氷月にプレゼントだよ」

『僕に?』

「うん、はい」

『...マフラー?』

「何時も寒そうにしてるから、迷惑だった?」

『いいえ、嬉しいです』

「良かった、今度は私が作るからね」






「ごめん、ね、氷月」

『どうして、ですか...!』

「約束、守れなくて...」

『僕を、おいて、行かないでくださぃ...』






『......』

引っ越してきて1ヶ月が経った

彼らに出会ってからあの頃の無力さをよく夢に見るようになった

悪夢なのか、わからない

優真に言えば悪夢と言われたが

僕は自分を何度も知るいい機会だと思っている

寝汗でべた付く肌と妙に早い心拍音はあの頃と変わらない

もう、4ヶ月前の話になるのか

5月の新しいカレンダーをまじまじ見ると

今日から体力測定だと言う事を思い出した

人数が多い学校であるために丸1日使っての測定らしい

身長や体重に座高、握力や上体お越し等々

朝からバスルームに入って軽く汗を流してから制服に腕を通した

妙にズキズキ痛む右腕は一体、僕に何を伝えようとしているのだろうか

『いってきます』

誰も居ない部屋に向かって一言言ってから扉を閉めて鍵を閉めた

?「なんじゃ、お隣さんなのか」

『?』

隣からは聞き覚えのある声が聞こえた

顔をそちらに向ければ

まだ眠い眼を擦っている仁王君がそこに立っていた

『おはようございます』

仁「ん、おはようさん」

彼は眠そうな顔から表情を変えて何か企んでいる笑みを零した



仁「お前さん、何時もこの時間に出ておるんか?」

『いえ、今日は早く目が覚めてしまっただけです』

仁「ふーん」

何時もは優真と歩いている道も

人物が違えば周りが別の景色に見えた

桃色に染まっていた桜の木々は夏を知らせる新緑に染まっていた

甘い匂いも消え、今は爽やかな香りが僕を包んだ

仁「お前さん、熱くないんか?」

『?、どうしてですか?』

仁「ブレザーに時期外れのマフラーだからな」

『?』

この日本の気候はよく分からない

朝は寒いのに昼になってくると暖かくなっていく

日差しも強ければ風さえも温かみがあったからだ

『熱くないです』

仁「変なヤツじゃのう」

クククと喉の奥から笑う

こう言う時の彼は楽しそうに見える

心の底から楽しんでいるように見える

だが、他の人と話す時は自分を隠している

他人に自分の領域を踏み込まれたくないようなそんな風に見えてしまう

彼は何から自分の身を守っているのだろうか?

正門に近づいて来るにつれ誰かの怒鳴り声が聞こえた

?「たるんだる!」

物凄い大きな声だ

近隣に住んでいる人達が何事かと外に出て確かめる素振りも見えた

仁「朝から張り切っておるのー」

彼は微笑みながら正門を潜っていく

真「ム、仁王。身なりが悪いぞ!」

仁「朝から怒鳴るなや。近所の人達が迷惑しとるぜよ」

真「...近所迷惑とは」

仁「真田の声は大きいからのう。...これ、何処に行くんじゃ」

2人の隣を素通りしようと試みたのが失敗してしまった

真「白川、何度言えばマフラーを外すんだ」

『寒いので...』

真「運動をしろ!たるんどるぞ!」

その間に仁王君は此方に笑みを飛ばすと自分は逃げるように去っていく、から

『真田君、仁王君はいいのですか?』

真「何?...仁王!待てっ!」

仁「げっ...」

血相を変えた2人はテニスコートの方へと走って行った



僕もそのまま昇降口へと向かった

?「おはようございます、白川さん」

『?、柳生君、おはようございます』

柳生「はい。あの、マフラーを取っていただけないでしょうか?」

『寒いので、無理です』

初夏もまだまだ寒い

じっと座っていれば本当に冷たい風が通っていく

『校則違反なのはわかっていますが、お願いします』

柳生「まあ、先生方にも理由は知りませんが聞いていますので。夏には外してくださいね」

『...善処します』

靴を履き替えて教室に入ると



柳「俺の予想よりも今日は10分早い登校だな」

幸「へー、今日はどうして早いのかな?白川さん」

『......』

最近、テニス部の人達がよく僕の周りに湧いて来る

こうも毎日来られても迷惑だけど

隣の柳君に用事があり飛火するのだろうと考えれば

僕にとってはなんの問題もない
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