大好きな... old

□勉強会
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仁「氷月、それはなんじゃ?」

『?』

コーヒーを持っていない手首には、大切な物を久しぶりにはめていた

『これですか?』

仁「ああ、そうじゃ」

仁王君の腕にあったブレスレットの白色のバージョン

全く一緒のサイズ、数、色合い、中のゴムの色まで一緒の物

『これは...、何でしょうか?大切な物、だと思います』

仁「なんで疑問形なんじゃ?」

『...よく覚えていないんです。誰から貰ったとか、分からないんです』

仁「...もしかて、お前さん、記憶が...」

『!、すいません。もう寝ますので』

仁「待ちんしゃい!」

急いでベランダから戻り戸にしっかりと鍵を掛ける

カーテンもしっかり閉めてからソファーに沈み込み、すっかり冷えてしまったコーヒーを口に運んだ

『さすが...』

流石はインスタント、味がそこまで美味しくない

適当に選んで買ってきた物だからか、今度はしっかりと選んで買ってこよう

それよりも

『詐欺師は頭の回転が速くて困ります』

彼の二つ名「コート上のペテン師」

生徒区間でも女を騙す詐欺をしているとよく耳に挟む

女子生徒の噂だと、「色気がある」「カッコいい」等と言われており、かなりの人気だ

けど、そのお陰か分からないが、彼はよく恋愛対象を変えると聞く

元から本気で相手をしているのではなく、ただただ相手の思いで遊んでいるとも聞く

振られた女子生徒の数は柳君しか分からず、仁王君は何かを求めているのだろうか?

それに比べて、僕には感情がない

喜怒哀楽が存在しない

あるのは「怒り」と言うものだけ

ただ優真が言うには沸点がかなり高いようで、そんなに怒る事もないと言った

僕の心を蝕んでいるのは「不安」のみ

この世を知らない不安と、自分が分からない不安だけ

他の人は自分自身を理解しているだろう

『僕は、誰ですか?』

誰も居ない空間に1人で話しかけるが、1人しか居ないために誰も話してくれない

当たり前の事なのに、不思議と不安になっていく

久しぶりに感じる胸の痛みと苦しみ、呼吸が出来てなくなる程ではないが

不安に潰されているのが1番身に染みる感覚だ

ちまちまと飲んでいたコーヒーの中身は既になく、このまま寝るのも良いかもしれない

カフェインを取っても普通に眠れるのは自分の便利な所だ

明日の提出物や用具を鞄に入れ、参考書等も一緒にしておく

寝室の電気を消してベットに入れば、意外と睡魔が襲ってきた






仁王sid

ベランダで逃げられた彼女の後ろ姿を、俺はまだ見ておった

リビングの明かりが消えた時にようやく思考が戻ってくる

仁「まさか、のう...」

腕にしておったブレスレットもそうじゃが

それよりも気になるのはあの返しじゃ


『これは...、何でしょうか?大切な物、だと思います』


『...よく覚えていないんです。誰から貰ったとか、分からないんです』


前にもテニスの事について聞いたが、それも覚えておらんと言った

此処まで聞けば赤也でも分かるかもしれん

それと氷月と風上の間に何かあったんかもしれん

アイツらは互いに互いを信頼しておる

だから、何かを話す時も相手の了承がないとしない

氷月はハラリと交わしてくるが、感情的になって風上の口は災いを開く

仁「昔の氷月、か...」

寝室のベットに寝転がって天井を見ながら考える

昔は笑っておったんじゃろうか?

あれだけ無表情になると言う事は何処か精神が危ういかもしれん

そう思うと、アイツは感情を表に出さない

笑わない、泣かない、怒らない、悲しまない

感情が欠落しておるのかもしれん

そんなダメージを何処でどうやって受けたんじゃ?



「笑わんのか?」

「...?笑う?どうやって笑うの?」

「そうじゃのう、楽しい事があれば自然と出来るぜよ」

「...楽しい事、ないよ」

「なら探せばええじゃろ?」

「どうやって?」

「そうじゃな、テニスせんか?一緒に」

「テニス?」

「ああ、2人以上でやる、スポーツじゃよ」



仁「ん...」

気づけば朝になっておった

懐かしい夢じゃ

河原に何時も立っており、川を見つめておる人物がおった

水色の髪、顔も見たんじゃがよく覚えておらん

何処かつまらんそうにしておった暇人と遊びたかっただけじゃったのに

意外と面白かったのを覚えておる

俺が教えたのにも関わらず、ソイツの腕はすぐに上達していった

今度、一緒に大会に出ようと言ったが

俺が約束を破って、遠くの方に引っ越してしまった

また何時か会えるかもしれんからと言って

物を交換した
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