大好きな... old

□闇
1ページ/5ページ

白川sid

夢の中で見る、自分の姿

白いポロシャツと白い半ズボンを穿いている

錆び付いた白い軽トラの後ろに乗せられては

冷たく暗い山道を走っていく

夜に外を出る時は何時も決まって大雨の日

銃声や人の叫び声が消しやすいからだ

今日もまた「狩り」をする

「人狩り」だ

小さな村を狙っては大人を全員殺し、子供だけを攫っていく

今日で4件目

仕事は大分慣れた

人を刺す時の感触も臭いも声も、全てが慣れてきた

人を撃つ時はしっかりと狙いを決め、銃弾を節約するように急所を狙う

心臓、脳、首、足と


「ついたぞ」


軽トラを運転していた運転手の男が車を止める

僕の村から一緒に攫われてきた3人の男の子が降り、最後に僕が降りる


「今日は全員捕まえて来い、いいな?」


男の命令に歯向かう事は出来ない

僕達の人質は、今まで捕まえてきた子供達の命

裏切りの行動を一瞬でも見せれば、その場で殺され

捕まった子供達も、全員の目の前で数人殺される

僕らはそれを頭の中心に置き、男の言葉に頷く

助手席から黒いベルトのような物を渡される

左利きの僕はベルトを付けると右の腰の辺りにはナイフの入れ物が来る

左のズボンのポケットに銃を入れ、最後に男からナイフが渡される

今ここでコイツを殺しても僕らは逃げられない

何時かは追いつかれ、捕まり、公開処刑

今を生き延びて、何時か太陽の下を歩き

普通の人間のように暮らして生きたい

それまでは自分で練習し、体を作り

何時か、この男達全員を殺して逃げ延びるんだ

大きな目標は胸に、子供達の事を脳の中心に置き

僕らは山を下る

徘徊している大人を殺し、家の中で怯えている大人を殺し、村の外に出る大人も殺す

恐怖で自我を見失った子供が反抗してこれば、数か所に怪我を負わせてロープで縛る

全てが終わると、村の中に軽トラが3台入り

その後ろに子供達を積んでいく

そしてそのまま車に揺られて、僕の今の居場所に戻って行く






『......』

瞼を開け、視界に映るのがまず明るい色をした天井だと言う事に安心する

隣で眠っている仁王君は僕の事を正面から抱きしめている

人の腕が暖かいのは、僕があの時の事を体が覚えているから

コンクリートの部屋には何もない

僕だけが1人、広く真っ暗で冷たい部屋で過ごしてきたから

彼の腕が暖かく、体温もある

人の体温は眠っている時は下がるが、今の僕の体温より、確実に彼の方が暖かい

9月の下旬に入り、夏の暑さが少しずつ和らいで行く

一昨日から黒いマフラーを付けて登校している

教室の中では解いているが、部活中は手放す事がなくなった

こんな夢を受け入れる事も出来るようになってきた

分かる、今なら分かる

少しずつ壊れ、少しずつ狂い、少しずつ虚しくなっている自分が分かる

何度も夢の中で、いや

昔の記憶の中で人を殺しても何とも思わなくなっていた

当時は自分達と同じように攫われてきた子供達が可哀想で

まだ汚れを知らないその子供達が汚れていくのが辛く感じていたようで

そんな子供達を助けたいと思っていた、んだ

今考え、あの時よりも言葉を覚えた自分が思う事は違った

自分達と同じように攫われてきた子供達が可哀想ではなく、とても哀れだと感じ

まだ汚れを知らない子供達が汚れていくのが辛いのではなく、当然のように思い

そんな子供達を助けたいと思ったのは

その気持ちに同情し、ただただ自分自身が相手を殺す言い訳が欲しかったんだ、と

自分は一体、どれだけの人を葬ってきたのだろうか?

あの時に望んだ願いは叶った

叶ったのに

どうしてこんなにも辛いのだろうか?

それは自分が幸せを独り占めしているからだ

やはり、自分は

外を知らずに、あの日、あの時、あの場所で

無残に死んだ方が、ましだったんだ

『これ、だね...』

こんな思いが無限にループして

昔の自分は、精神を闇に食われ、飲み込まれ、蝕まれたのだろう

食事があっても、暖かい家族があっても、太陽の下を歩いていても

それは本当の幸せではなかったんだ

哀れなのは、一番に哀れなのは、自分だったんだ

『はは...』

乾いた笑い声が耳に小さく聞こえる

今も壊れている、少しずつ、少しずつ闇が侵食して

僕を、白川氷月と言う殺人鬼を

殺してくる

もう、戻れない

何処にも戻れない

僕は、永遠の1人

本当の幸せなんて、何処にもない
次へ
前の章へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ