世界が違う

□最上さん
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最上sid



迅「行かないで!最上さん!!」

最上「行かないといけない。俺には戦う術があるからな」

誰もいないボーダー基地内の廊下で2人は何かを言い争っていた

俺の後ろには既に準備の出来ている白川が立っており

迅は俺の体を離すまいと必死にしがみつく

迅には副作用があった

それは少し先の未来を見る事だ

白川とは反対の副作用

それにより迅が学校内で避けられていた理由を理解し、今では親子のような関係だ

しかし、一たび戦闘になれば俺は心を鬼にし迅を実力者と認め戦場へ駆り出した

ボーダーが設立して数年経つが、今だに人材不足を補う事は出来ていない

此処十年で入った隊員よりも、この世からいなくなった人の方が断然上であり

今では本当に実力者が少ない

迅の未来視で捉えた情報を元に今回も作戦を立てて行動する

そして、迅は小南と木崎の3人で組み

俺は白川とペアで行動する事が決まった

そして此処から出る前、級に呼び止められ振り返れば迅が俺を離さない、と言った事が冒頭だ

最上「迅、お前もボーダーの1人だ。近界に対抗出来る唯一の戦力。此処で俺を入れなければどうするんだ?」

迅「でも!」

最上「大丈夫、俺は絶対に帰ってくる」

力の弱まった隙に抜け出し、待たせていた白川と共に外へ出た

憎たらしいほどの曇天、これからの事を予兆しているように

移動中、特に通信も入る事がなければ何時にも増して白川の表情が険しかった

何時もは陽気でヘラヘラと周りを安心させるような笑みを浮かべているくせに

今日に限っては真剣な表情そのものだ

最上「どうしたんだ?白川」

『ん?最上さんも嘘つくな、と思っただけじゃ』

最上「嘘?」

『おん、そうじゃよ。理解した時には手遅れなんじゃ。じゃから、最上さんも基地で大人しくしてくれんか?迅のために』

最上「!」

民家の屋根に降り立つと数歩前にいた白川を見る

何時もはふざけて「もがみん」と呼ぶのに

ほんと、今日に限ってはしっかりと「最上さん」と言うし

迅の事を「ガキンチョ」と言わずに「迅」と言う

最上「何か、起こるのか?」

『最上さんが死ぬ。その未来を視たようじゃ。迅はな』

その言葉に俺は声も出なかった

俺がヘマをして死ぬのか

どう言った経緯でこうなるのかは分からない

けど、嫌なほど真剣な表情をする白川は人の命が関わると真実しか口にしない

最上「迅が言ったのか?」

『ん?まあ、そんな感じ』

迅と出会ってから白川はこう言った事を濁すようになった

迅は他人には相談事持ち出さない

それは師である最上にも、よく遊びに来る林藤にも、同年代に入った小南と木崎にもだ

しかし、迅は白川の事を特別視している

歳も近く、1ヶ月も同じ屋根の下で暮らしたからだろうか

けど、迅を預けてからと言うもの白川と2人きりになる事は少ない

対戦中の時も誰かが立ちあっているし、勉強を教えている時もだ

最上「白川。何を隠している」

『真剣じゃな。最上さんは』

最上「どっちがだ」

『最上さんは我の副作用を忘れておるだけじゃ。知りたい情報は既にあるじゃろ』

悲しそうに微笑んだ白川は民家の屋根を走り出した

それを追いかける様に作戦で指示のあった場所へと赴く

白川の副作用は「過去視」

相手の記憶の見て自分の情報へと変換する副作用だ

相手の記憶情報が多ければ多いほど脳への負担は大きく、よく偏頭痛に悩まされている

市販の薬が効く事はなく、しばらく安静にしてないと頭痛は収まらない

俺が知っている白川の副作用だ

最上「白川、お前...」

『......』

その言葉に反応した白川は顔だけを俺の方へ向くと嬉しそうに微笑んだ

彼女は「過去視」と言う副作用で困っていた

知らない人の勝手なプライベートを覗いて、その頭痛に何度も悩まされていた

白川は相手の「記憶」の過去を見ていたんだ

だからこそ

迅が副作用で視た未来の記憶を

白川の副作用で迅の記憶を視たのだ

全ての辻褄があった

白川が迅をあの時手放したのは、自身が使い物にならなくなる事を恐れたためだ

迅は未来を視る、それは確定した未来でもあればいくらか分岐する不確定な未来までも

白川はその過去を見たくなくとも副作用は働いていしまう

そのために多大なる情報で脳と心が壊れないようにセーブをしていた

時々しか会わないのはそのためなんだろう
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