世界が違う

□最上さん
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白川sid



『何やってんだろうね。我は』

最上「お前のせいじゃない。お前は何も悪くないんだ氷月」

『我のせいじゃよ。じゃって、我が此処におらんければ、もがみんの未来が変わったからな』

最上「そもそも、出向かなければ問題なかっただろう?」

『それもそうじゃな』

空から零れる白い結晶

口から零れる白い息

体から零れる白い光

最上「迅に「すまなかった」と言ってくれ」

『おん、分かった』

最上さんは、いなくなってしまった

自身のミスで死んでしまったのだ

前には近界がまだまだいる

此処で死ねばそれこそ迅が壊れる

手にある「最上」を起動させる

黒い柄から緑色の刃が出る

『あーあ、我は何のためにおるんじゃろうな』

自身にさんざん悪態を上乗せして、前を見る

我はただ、迫りくる相手をなぎ倒していった



城戸「そうか、最上が」

『おん、我のせいじゃよ。大丈夫、責任は取る』

テーブルには「最上さん」だった黒トリガーが乗せられていた

忍田「待て、お前のせいじゃないだろ?最上は自分の意志で黒トリガーに...」

『我がミスしたんじゃ。我が、な』

会議室から出れば所々に隊員が居て涙を零していたが

我が向かうのはこの基地にある医務室

林藤「2人は無事だ。ありがとな」

『...礼を言われるにしてみれば、なんだか苦しいな』

林藤「最上の件はお前のせいじゃない。城戸も忍田もそう言っただろ?」

『じゃが、あの場におったんは我じゃ。そして我のミスがもがみんの命を奪った。分かりないさ』

林藤「お前もまだ子供だ、それなりに泣いてもいい」

『泣く、か。さて、どうやって泣いたもんかのう』

医務室の中には小さな赤子と迅が眠っていた

その傍らには小南が涙を零しながら寝ており、椅子には木崎が座ったまま寝ていた

『だいぶ温まったようじゃな』

林藤「ああ、赤子の方も大丈夫だそうだ。明後日には普通の病院に搬送される予定さ」

『ほうか、よかった』

小南に近寄り目じりに溜まった涙を払い毛布を被せ

座っている木崎に関してはソファーまで連れて行き横に寝かせて毛布を掛ける

室内温度を2度あげて、彼らが寒くないように心がける

林藤「帰るのか?」

『おん、此処におるくらいじゃったら帰るし、家には猫がおるからな』

林藤「そうか、明日も来いよ」

『気力があったらな』



『ただいま』

部屋に帰ってくると余計に寒いと感じた

リビングまで行きすぐさま寝室に暖房を付けた

寒気、吐き気、疲労、頭痛、眩暈

それら全てを感じる

猫達のご飯をいつもより多めに用意する

我はとりあえずシャワーを浴びて布団に入る

帰り道の途中、我の副作用が暴走を起こした

視界に入った人達の記憶が流れ込む

近界に食べられた子供を見ているお爺さん

吹き飛ばされた風圧で体がぺしゃんこになった父親を見た小学生の娘

瓦礫の中で息絶えたお婆さんを見た小学生にも満たない孫

怪我をした友達と命からがら逃げた同級生

近界は一体何のために我らを捕食するんじゃろう

ズキズキと痛む額を押さえながら天井を見上げる

思い出すのは、今日の事

赤子を抱きしめたまま走っている生身の状態の迅を見つけた

近くにより、近界民から守ろうとするも何時もの捕食型の近界民ではない敵が現れる

我はソイツの行動が分からんかった

口の力をため込んだ瞬間、何時もと違うと分かった時にはもう遅い

迅と赤子を抱きしめ、精一杯の守りを徹するも

体は吹き飛び、我のトリオン体は解除される

迅は額が切れて血を流したまま眠り、赤子は無事

けど、我が見たのは

換装が解けた最上さんが我らを庇い、建物の下敷きになっていた

気づいた時にはもう遅い

最上さんは自分の死に際を見極め、持っている自身のトリガーに全てのトリオンを集中させた

やがて出来上がったのは黒く長細い黒トリガー

最上さんは白い砂と化し、風に吹かれるがままに消滅した

我は迅と赤子を守るために黒トリガーを使い何とか乗り切った

『我も兄と一緒じゃな...』

油断していた

別に自分の力なんか慢心してなかった

だが、我は結果的に敗北したのと一緒だ

『もがみん、ごめん...』

いなくなった人に言葉は伝わらない

懺悔であっても、報告であっても

何も伝わる事はないし、返って来ない

「「「ニャー」」」

『寝よう、疲れた』

布団に現れた3匹の猫達は我の周りに来る

ヴァイスは頭上に、シュヴァルツは右肩に、ブラウンは左肩

暖かくモフモフとこそばゆいが、今は安心出来る
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