世界が違う
□家族
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?「ガキンチョ、行くぞよ。此処にはもう、要はない。時間が経てば専門の人が来る。そうすれば、また母親に会えるんじゃけん」
迅「......うん」
?「ん、ええ子じゃ。一先ず移動するぞよ」
その人は首に掛けてある緑色のサングラスを付けると俺を抱え上げた
?「男にしてみれば軽いな。ちゃんと食べておるんか?」
迅「食べてる」
?「ほうか。んじゃ飛ぶからしっかり捕まっておれよ」
迅「え?飛ぶって?」
俺の疑問が届く前に、その人は俺を抱えたまま空高くジャンプした
その人を見たくても雨が降っているせいで上を見る事が出来ず
自然と体はその人にしがみつくような形となった
下を見れば既にもう、母さんの姿は見られなかった
?「ん?通信か。ほいほい、白川じゃけんよ」
何処か陽気なその人の声は、何故か俺の心を黒くしていった
あれだけ人が死んだのに、どうしてこうもマイペースなんだろうか
怒りで我を忘れて暴れだしそうな自分の体をグッと堪えながら話を聞いた
『ほうか、大体は予想の範疇じゃったか。分かった、我も用事が済んだらすぐに向かう。おん、分かった。了解じゃ』
家の屋根を飛びながらその人は真っ直ぐに何処かへ進む
雨で冷えた体が冷たい風に振れると余計に寒い
それは常識だけど、本当に寒くて寒くて仕方がなかった
『ガキンチョ。言っといてやる』
迅「?」
『今回の化け物の騒動、我々は知っておった。知っておって対処した結果じゃ』
迅「!」
『何十人の人が死んだか分からんし、どのくらいの被害を受けたのもまだ分かっておらん』
迅「......」
『じゃが、これだけは言っとく。これはいい訳じゃ。化け物に対応出来る人が今は少ないんじゃ。じゃからこの結果になった。そんで、君の母親はその瓦礫の下敷きになった時点で死が決まっておった』
迅「知ってる、よ。今日もそれが見えていたから」
『そうか、ほれ着いた』
迅「?」
着いたと言われて前を向くと、赤色の屋根があるアパートだった
俺を抱え上げたままその人は鉄の階段を上り一番奥の部屋の前へとたどり着いた
ポケットから鍵を取り出してカチャと音が鳴る
鍵をもう一度ポケットの中にしまい込めば扉を開けた
「「「ニャー」」」
中から出て来たのは黒、白、茶、と一色しかない猫3匹
中に入って扉を閉めればその猫は白川さんに纏わりつくように顔をごしごしと擦って来た
『猫は大丈夫か?』
迅「う、うん」
『ほうか、ならええな』
靴を脱ぎ捨てる様に脱ぐと俺の靴は丁寧に置いた
そのままリビングらしきところへ行くかと思いきや
彼女は脱衣所で俺を下した
『風呂は沸かしてある。早く温まった方がええ。ガキンチョは風邪を引きやすいからな』
迅「え、でも...」
『我はまだ用事があって出にゃいかん。それに入っておる暇もなか。しっかり入って温まってから出て来るんじゃ。後は好きにすればええ。出て行くのもよし、此処におるのもよし。じゃから、しっかりと自分の中を整理するんじゃ』
迅「き、着替え、とかは...」
『我の兄弟のを貸すぞよ。どうせ誰も帰って来んからな』
迅「......」
『ほれ、さっさと行った』
初めてよく顔を見れば疲れたような表情をしながらも笑顔だった
穏やかに微笑んで、優しい声音で、変な方言で
俺が服を脱ぐと猫3匹を連れてリビングの方に消える
湯船は熱かった、体の芯から温まっていくのが分かる
そして怪我をした部分からは血がにじみ出る
染みるけど、その痛みも現実なんだと簡単に知る事が出来た
『ガキンチョ。一応ご飯は置いておいたから温めて食べるんよ。ええか、温めてじゃぞ』
迅「はい」
『じゃあ、行ってくるな。鍵はポストの中に入れておくぞよ』
バタンと扉が閉まる音がするとカチャリと鍵を掛ける音が聞こえた
少し大きめの服を着てリビングに行く
すると猫達は皆俺の足にすり寄ってきた
随分人なれした猫だ
テーブルの上には猫用のご飯と人間用のご飯が並び
猫達はそれを待っていたかのように見えた
テーブルから猫用のお椀に入ったご飯を床に置くと猫達は並んでそれを食べる
それを見て俺は白猫の背中を撫でるも、白猫はご飯に夢中で俺を無視する
あの人に言われた通り白色の電子レンジでご飯を温め、ガスコンロの上にあった味噌汁入りの鍋に火を掛けた
換気扇をしっかしと回して、ぐつぐつと煮込む音が聞こえガスコンロの横に置いてあったお椀へとそれをよそった
迅「いただきます」
箸を持つもの痛い手では中々掴めない
それでも暖かいご飯と優しい味の味噌汁と食べて
母さんの作ってくれたような味に涙が零れた
この優しい味のする味噌汁が母さんのと似ていたから
ゆっくりとご飯を食べ終える
茶椀等をどうすればいいのか分からず、そのままにしておき兎に角部屋をうろついた
風呂で温まったとは言え部屋の中は寒いからだ