世界が違う

□壊れた心臓
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白川sid



容体が大分落ち着いた所で1週間ぶりの玉狛に戻っていく

その連絡通路では悠一と手を繋いで行動していた

『...悠一君や』

迅「何ですか?」

『どうして我はお前さんと手を繋いでおるのじゃ?』

迅「離すと何処かに行ってしまうから。それに、俺は氷月さんの隣に居たい」

『...トリガー使いでもないんに?』

迅「それでも、です」

正直言えば、恥ずかしいと思う

今は誰も居ないからまだしも

これが慶や東さんに見られたら平常心を保っておられんかもしれんな

迅「ふふふ...」

隣の彼を見上げれば心から笑っている表情だ

我はそれだけで満たされていく

迅「なんで笑っているんですか?」

『え?我が?』

迅「はい」

『...?』

自分の表情はよく分からないものだ

自分で自分が見られない事は分かっているし、我は戦場でも常に笑っていた

いや、笑わなければいけなかった

古株であり、迅の頼りになる人物は恐らく我であり

そんな彼の不安と取り除くためには常日頃笑顔でいないと思っていた

だが最後の最後で失態を犯す

それがアイツとの真剣勝負

迅の換装体が解かれた時、迅が死ぬ事を我は誰よりも恐れた

それは未来が見える彼の能力を失う事ではなく、迅悠一という人物そのものを失うのが怖かった

だからあの時は真剣になった

悠一を守るために、悠一を救うために、悠一を見ていたいために

悠一と一緒に話して、悠一と一緒にご飯を食べて、悠一と一緒に寝て

それだけで我の中は満たされていた

どうやら我も吊り橋効果に乗っかっておったようだ

迅「氷月さん」

『!、悠一』

通路の出口、悠一は急に背後から抱きしめて来た

それはもう優しく、壊れ物を扱うかのように

前に回された腕には静かに力が込められて

迅「あの時は、助けてくれてありがとうございました」

『あの時?ああ、お前さんと初めて会った時か』

迅「違います。4年前の、あの時です」

その言葉を聞いて「ああ、あの時ねー」なんて呑気に思い出すも

悠一の腕は震えていた

『...怖かったじゃろ?我が本気で殺し合いをしておって。お前さんの前で殺し合いなんてするんじゃなかったって、我は逃げたんじゃ。目の前の近界民を助けるフリをしてな』

迅「確かにあの時は怖かったです。俺の知らないあなたが目の前に居て、「憧れ」の人が人を殺すなんて見たくなかった」

『まあ大体はそうじゃろうな。お前さんの言っておる事は間違っておらん』

迅「けど、あなたは俺の事を何よりも考えてくれた。のちに忍田さんから聞きました。本当にありがとうございます」

悠一の優しさなのか、その言葉にはどうしても礼の意味が強く込められているだけしか感じない

近界民との何度も交渉しているせいで、我は信用する事を失い疑う事ばかりを考えていた

悠一がそうする訳がない、そう思っても何処までも信用が出来なくなっている

ああ、なんでこんな風に壊れてしまったのだろう

もっと違う壊れ方があったはずなのに

迅「氷月さん。お願いだから、何処にも行かないで」

『その歳になって言うんは恥ずかしくないんか?』

迅「恥ずかしいけど、でも、それよりも、失う方が、怖い」

『...そか、ならお前さんのために傍にいてやるよ』

迅「ちょ、恥ずかしい台詞なんて普通に言って。揶揄ってるでしょ?」

顔だけを後ろに向ければ羞恥で頬を染めた悠一が怒っている表情で此方を見ていた

『勿論じゃよ』

此処で決めてを加えて、悠一は固まった

するりと腕から逃げ出すと悠一の頬はもっと赤く染まり、手で口を覆っている

『ほれ、玉狛帰るぞよ』

迅「...反則」

動かない悠一の手を掴み、前へと進む

悠一は我が壊れている事を知っているのだろうか?

それは体ではなく、精神が

孤独をしっかりと味わいながら知らない環境の中で5年間も過ごした我

それで失った物と言えば、相手への信頼

それで貰った物と言えば、相手への疑い

我はまだ、このボーダーに所属する隊員全てが信用出来ていない

だが、その前に

我には我自身の決着を1つもつけていない

今まで見なかったものを、見なければならない

外へ出れば熱い夏の日差しが地面を蒸し焼きにしている最中だ

強い光を放つ太陽はお構いなしに照り続ける

地面から出る水蒸気でユラユラと蜃気楼のような現象が現れている錯覚でさえ覚えてしまいそうだ

『今日は暑いな』

手を繋いだ悠一は未だに頬を赤らめて我からの視線を外す

それ程までに恥ずかしいとはな

久しぶりに気分が高調していくのが分かった

さて、10年以上も行ってないあの場所に行かなければならい

さて防衛任務やさて会議や等で結局行ったのは城戸さんや忍田さんに林藤さんと最上さんだ

1人で行くのは怖い、あの日に戻るから
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