世界が違う

□いつも通りとは言わない
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出水との1本勝負を終えた白川さんは真っ直ぐに俺の元へと来る

今はトリオン体じゃないから心臓が激しく暴れまわっているのが分かる

『慶を借りて行くぞ』

国近「はーい、後1時間で任務ですからねー」

『りょーかい』

国近が笑顔で手を振っている中、訓練室から出てきた出水は苦笑いをしながら見送っている

あれ?俺はどうなるんだ?

『ほれ、行くぞよ』

太刀川「ちょ!」

俺の手首を掴んだ氷月さんは隊室から出ると真っ直ぐに仮眠室へ向かう

中は真っ暗で誰もいないようだ

『トリガー、解除』

生身に戻った氷月さんは俺の手首を掴んだまま一番奥のベットへと向かって行く

え、ちょっと待ってよ

俺、本気になっちゃうじゃん

ベットに仰向けに寝そべった氷月さんは変わらずにそのまま俺の手首を引っ張る

呆気に取られた俺は氷月さんに覆いかぶさるように倒れこんだ

太刀川「氷月さん!ちょっと!」

『黙って聞け。ついでに動くな』

低い声と威圧が掛かり、俺は動けなくなる

恐怖が纏わりついて

手首を離されたと思ったら氷月さんは俺の頭を自身の胸に押し当てた

柔らかい感触を堪能していると、俺の耳は氷月さんの音を拾った

トクン、トクン、と規則正しい静かな音だ

『我のトリオン器官の成長はまだ止まっておらん。じゃからこそ、この罅が治る可能性が高いんじゃ』

太刀川「!」

『お前さんが怒っておる理由は「我は黒トリガーになる事」じゃろ?違うか?』

太刀川「だって...」

『我じゃって皆と過ごしたい。じゃがこのまま戦力にならん人間を当てにされても困る。黒トリガーは器官が本当に治らないと判断した時になるんじゃよ』

太刀川「じゃあ一緒に戦ってくれるんですか?」

『当り前じゃ。我は此処を守るために帰って来たんじゃよ。どの国でもない、此処をな』

深呼吸をすると氷月さんの甘い香りが広がった

今は、俺が独占している

『隊務規定違反としては既に罰を受けとる。それはボーダーに背を向ける事じゃ。あのトリガーも今はないから、我の罅が広がる事はないじゃろう』

太刀川「じゃあ...」

『...もし、お前さん達が死にそうで、この国の未来にピンチが訪れた時。我は我の命を差し出して此処を守る。慶も、ボーダーも、三門市も、一度だけ守ったる』

太刀川「嫌だよ。あんたが居なくなったら俺は誰を目標にすれば...」

『沢山おるじゃろ。蒼也に悠一、忍田さんじゃって強い。だが、それでも迷ってしまった時は、隊の皆を守る事を目的に戦えばええ』

隊の皆、出水、国近、唯衣

『他にもおるじゃろ?家族、友人、大学の同僚、恋人、親戚ほら、いっぱいおる。ソイツらを守るため貪欲に強さを求めればいい。守ったる。絶対にお前さん達を、我が生きておる間は死なせんよ』

真っ暗だからどんな表情をしているのか分からない

けど、きっと真剣な話をしてるんだ、真剣な表情をしているだろう

『我は簡単には死なんよ』

太刀川「俺の我儘。付き合ってくださいよ」

『ええよええよ。お前さんは此処のエースじゃからな、ストレスもあるかもしれんし...ん?』

太刀川「?」

『慶、レポート2つ溜めておるな』

ギクッ!

『多分、今日中に忍田さんに叱られるな』

太刀川「!!??」

『我の副作用がそう言っておる』

太刀川「迅の改良版!!」

『ほ〜れ、どっする〜?』

太刀川「我儘聞いたください!」

『防衛任務終わったら悠一が真っ直ぐ玉狛に来いと言っておったらか無理じゃ』

太刀川「じーーんーーー!!!!」

この日の氷月さんは普通だった

何時ものように手を引っ張ってくれて、何時ものように微笑んで

迅とくっついたって聞いた時はショックだったけど

別に氷月さんが完全に居なくなる訳ではない

守りたい

心の底から笑った氷月さんを見たい

それには迅が必要なのかもしれないけど、それでもいい、最初のうちはそれで満足する

太刀川「俺、氷月さんの事大好きです」

『そか。じゃがすまんな、我は悠一の方が好きなんじゃよ』

太刀川「知ってます」

『そか。じゃが好きな後輩ではあるからな、何時でも相談は受けたるよ。勉学以外な』

この歳で頭を撫でられるとは思っていなかった

けど、やっぱりこの人はすごいや

恥ずかしいのに、安心する

今なら迅の気持ちが分かる

恥ずかしいのにやめられない、この安心する撫で方がやめられないんだ
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