大好きな... old

□変化
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怖がる?囚われる?拒む?

仁王君は何を言っているんだ?

ドクドクと鳴り響く命は、何かの危険性を知らせている

『あの、おっしゃっている意味が分かりかねますが』

仁「そうじゃのう。なら、お前さんは今、誰を見とるんじゃ?」

『誰、とは...、あなたは仁王君ではないのですか?』

仁「そうじゃ」

息が掛かる距離、それでも彼に真剣な表情は心が読めない程であり、真剣な瞳は僕の目を射貫いている

『なら...』

仁「じゃあ、なんで距離を置くんじゃ?」

『え...?』

距離を、置く?

仁「何処に居るんじゃ?お前さんは」

『何処、って...』

仁「俺達を見んしゃい」

顎を持ち上げられ、彼の顔を視界いっぱいに見た

よく見れば綺麗な顔をしている

テニスをしているとは思えない日焼けを知らない白い肌

男性にしてみれば細い体つき

骨ばった優しい手

香水の甘く苦にならない爽やかな香り

学校中のアイドルの意味が分かったのかもしれない

仁「そうじゃ、こっちを見るんじゃ」

『......』

何を言っているのか意味が分からない

意味は分かっているけど、彼の言葉の意味が分からなかった

黄金色の瞳、白い肌、銀の髪

少しずつ時間が経てば、彼の表情は和らいでいった

仁「ええ子じゃ、そうやって俺達を見んしゃい」

『な、んで...?』

仁「お前さん、何時も誰かを見ておるじゃろ?俺達を見ておっても、お前さんの目には映っとらんのじゃ」

『僕は、あなた達を見ています』

仁「いや、見とらん。何時も此処にはおらん誰かを見ておるんじゃよ。気づかんか?」

此処には居ない、誰か?


「氷月」


『!』

アリィ...

今一瞬だけ、アリィが見えた気がした

仁「氷月」

『!』

仁「誰を見とった?」

なんですぐにバレるんだろう?

この人には、嘘が付けないような気がしてきた

『とも、だち...』

素直に言葉が出てしまった事に後悔した

仁「誰じゃ?何処に居るん?」

『外国の病院...同年代の女の子...』

駄目だ、言葉に出てしまう、言ってはいけないのに

仁「名前は?」

『名前は...!、うっ!言えません!』

仁「!」

仁王君は驚き数歩後ずさる、僕はその隙をついて屋上から逃げ出した

『なんで、言葉に...』

仁王君の質問に素直に答えてしまった

けど、胸に引っかかっていた物が少しだけ取れ

息が楽に出来るようになった気がする

それよりも、僕は彼らの事を見ていなかったのか

全く気付かなかった

外国に置いてきてしまった友人の事が気掛かりで、それを引き起こした僕は普通に生活して

何が守だ、全く守れてないじゃないか

優真も守れなかった

僕は、何処まで出来損ないなんだ






仁王sid

ちとやりすぎた気がする

顎を持ち上げ尋問とはのう

じゃが、あの時の、俺を見てくれた瞳は美しかった

濁っておる瞳が一気に澄み渡り、穢れを知らない透き通った水のような輝きがあった

髪から香るシャンプーの匂いもよかったし、久しぶりに見た彼女の髪は綺麗じゃった

久しぶり?俺は何を言っておるんじゃ?

アイツとは何処かであったのか?

氷月が出て行った扉を見つめながらフェンスにもたれ、懸命に思い出す

じゃが、何も分からん

そもそも参謀に聞いても、白川氷月の情報が分からんのに俺が知っておるわけなか

知っておるとしたらまだ神奈川に来る前じゃろう

しかし、

仁「綺麗じゃったのう...」

思わず口に出してしまうくらいに、彼女は綺麗じゃった

日本人とは思えん青の瞳、懐かしさを感じる水色の髪、一部しか見えんきめ細かい白い肌

手以外にも出しそうになったぜよ

それにしても、外国に置いてきた同年代の女の子の友人、か

アイツはその友人の何を思っておるんじゃ?

氷月の事が分かったかと思えば別の疑問が持ち上がる

今一掴めん、まるで霧のようじゃ

目に見えるのに、この手で掴む事も出来ん

フワフワと浮いておる訳でもなければ、風に流されにくい

かと言って何時か晴れる時は何処かに姿を隠しておって

仁「分からん」

俺や参謀、幸村でもアイツの心を真意を見る事が出来ん

何を考えておるかの予想は付いても、中を見る事が全くと言っていい程出来ん

これだけ手こずったのは初めてじゃ、いや、これも微妙に初めてじゃないのう

小さい頃に、あった気がする

いつじゃっけか


「桜、見ようね」


仁「桜、か...」

屋上から見下ろせば新緑の葉を風に靡かせておる、桜の木が見えた
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