大好きな... old

□準備
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柳「今日からこれを付けて一緒にトレーニングをする」

『あの、僕がマネージャーの仕事を放り投げてよろしいのでしょうか?』

幸「決まった事だよ。それに、君は2つをこなせばいい」

『なんだか無茶苦茶ですね』

幸「ふふ、そうでもないさ」

仁「ほれ、やるぜよ」

『分かりました』

9月の中、炎天下の中で

僕は男子テニス部の選手として今日から彼らと一緒に練習する事になった

このような事になったのは高校テニスの全国大会が終わった数日後

2学期が始まってすぐに女子テニス部やテニスに自身のある女子生徒が、男子テニス部の使っているコートに呼び出されたのであった

呼び出しはとても雑だった

始業式が始まり、校長先生の話を聞き終わった後

舞台の上に幸村君が立った

そこら中の女子生徒は騒ぎ出し、男子生徒はポカンとしていた

舞台の脇に立っていた教頭先生からマイクを受け取ると、舞台の真ん中で止まった

幸「来年、男女混合テニス大会があります。そのために明日から数人の女子テニスの選手の選抜を始めたいと思います」

『......』

マイクを片手に幸村君は手元にある紙を見て言った

幸「テニスに自信がある女子生徒は、明日男子テニスコートへ、よろしくね」

最後に、それは綺麗な笑みで言った事により、女子生徒の音量が上がる

その真っ黄色な、悲鳴に近いような声が体育館を占拠し

僕はその声量に負けて内緒で体育館を後にした

教室の扉には鍵が掛かっている事によって、僕の行く所は1つ、屋上

『はぁ...』

そこまで大きくない溜息を吐き出しながら日陰になっている何時もの所へ向かう

『?』

仁「なんじゃ、お前さんも抜け出してきよったんか」

『仁王君とは違って7割は参加していました』

仁「まあ、さっきのすごかったのう」

彼は床に寝そべって雲1つない空を見上げる

『仁王君は知っていましたか?男女混合テニス、ミクスドの事を』

仁「まあな。朝、幸村から聞いたんじゃよ」

『そうでしたか』

仁「聞いた経緯はそれだけでええんか?」

『はい、幸村君と仁王君は同じクラスですから、そこで聞いたのかと推測されます』

仁「ん、正解じゃ。無駄に頭がええのう」

『良くなんかないです。ただそう思ったからです』

仁「推測と言ったじゃろ?お前さん、参謀に似てきたのう」

『僕が、柳君とですか?』

仁「おん」

『それでは柳君が可愛そうです。こんな僕と比べて』

仁「......」

『...なんですか?』

楽し気に空を見つめていた彼が急に上体を起こし、怒ったような表情で此方を睨んでくる

これは族に言う、地雷を踏んだ、と言うものか?

仁「お前さん、自分の事を過小評価しすぎじゃ」

『全て本当の事です。自分は感情から常識まで、ありとあらゆる面で欠落しています。寧ろ、人間と認識される事すら怪しいくらいです』

仁「お前さんは出来る事がありすぎじゃろ。あの時見せてくれた格闘技や類まれない身体能力。屈強な精神力に雑学まで取り入れた知識。それ以上、何を望むんじゃ?」

何、を......

『それは...』

仁「お前さんは自分を主観的に見過ぎておる。たまには客観的に見た方がええ。コイツにはこれは出来んが、自分は出来るとか」

『それは経験の問題です。出来るようになるまでには誰にだって時間が掛かります。その違いだけで絶対に出来ない事はないのです』

仁「それは機械音痴に向かってロボットを作れと言っても一緒か?」

『......』

仁「機械音痴がロボットなんて作ったら、とんでもない物が出来るぜよ。スイッチを押しただけで動くかどうかも分からん」

『......』

仁「それでも、お前さんは一緒じゃと言うんか?」

『...否定、出来ません』

仁「じゃろ?俺から見ればお前さんは完璧すぎる人間じゃ。そのせいで人間とは思われずに、台本通りに生活しておる役者みたいじゃ」

『役者?』

仁「ロボットなら設定した行動以外の事は出来ん。じゃが役者なら急なアドリブでも対応出来る。それと似ておる感じじゃ」

『僕が、役者...』

仁「そしてその役者から抜け出したいのは分かった。料理、洗濯、掃除、身の回りの事なら出来るのに、お前さんは何を望むんじゃ?」

何を、望む...

確かにそうかもしれない

身の回りの事なら大抵の事は出来る

料理をするのはお腹を満たすため

洗濯をするのは汚いのが嫌いで

掃除をするのも一緒の理由

確かに、何が欲しんだろ

僕は

感情?日常?一般常識?対応力?記憶?

何が欲しんだ

僕は一体、何を望んでいるの?
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