ドンドンドドドン四天宝寺!!

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「名前、はよしーや。」

『............。』



憮然とした表情で前を歩く白石を見る。


今のあたしがどういう状況かというと、職員室へ行きプリントを提出した帰り道だ。
だがこれから向かうのは家、ではなくテニス部。


なぜテニス部へ向かっているのかというとだ...。




――約10分前――


『お...おわったぁ...!!』

「お疲れさん。」

そう言って白石蔵ノ介はあたしの頭を撫でる。
その手を払い除けながら時計を確認すると、ほんとに30分で終わっていた。


まじか。


1時間も考えに考えてわずかながら埋めた解答。
しかもすべて不正解。
改めて無駄な時間を過ごしたと思い知らされて、なんだか腹立たしい。

つーかコイツ顔も良くて頭も良くて、しかも勉強教えるの上手いとかチートかよ。



「いや、さすがの俺でも名前に教えるんは骨折れたわぁ。」




.........。




これに関しては返す言葉もない。
自分でもあたしみたいな教え子はゴメンだもんな。
それくらい英語に関しては理解力がない。
こんなあたしにたったの30分でプリント数枚させられるなんて大したもんだよ、ホント。


「何でそない上から目線なん。」

お前こそ何でそんなサラッと人の心読んでんだよ。


「読んでるんやない、感じてるんや...!!」

変態なんですね、わかりました。


「変態て、人聞き悪いわぁ。」

そう言うわりには笑ってませんかね?




『......え、てか何で人のこと名前で読んでんだよ。許可した覚えねぇよ。』


危ねぇ。
読心術に気を取られて流すとこだった。
コイツさっきあたしのこと名前で読んだよな?
名前で呼ばれるとか違和感しかないんだけど。


あたしはここへ来てぼっちライフを送っているわけだが、何もコイツのちょっとした嫌がらせというか、周りを煽るようなことだけが原因ってわけでもない。




もともとあたしが周りと距離を置いてしまうほうなのだ。
一人でいて苦に感じない性格なのもある。

友人なんて、氷帝のやつらのように人のテリトリーにズカズカと踏み込んでくるようなやつか、忍足のようなかなりフレンドリーな性格のやつくらいしかいないのが現実。


ようは自分のペースを崩されたくないんだ。

いや、氷帝では崩されまくりだったけどさ。


でも人が嫌いとか、関わりたくないって思ってるわけではない。
たんに自分から関わりを持とうとしないだけで。


だからあたしのことを名前、しかも呼び捨てで呼ぶ人間は限られているし、それ以外からは呼ばれると違和感しか感じないのだ。

それに距離感とかもよくわからんし。



「何言うてんの、俺と名前の仲やん?」

どんな仲だ。

クラスメイトで席が隣ってだけだ。


「それで十分じゃないん?」

『...。』


......なぜだろう。
コイツに呼び捨てられるのは無性に腹が立つのだが。

この感じ前にもあったぞ。


アレだ。
跡部に初めて名前を呼ばれたときだ。
アイツは初対面から人のことを呼び捨てていたが。


あの時の感覚に似てる。






『...全てはその顔面とその他諸々のスペックが悪い。』

「え?」



顔がいい。頭もいい。人気もある。
白石蔵ノ介は知らんが、跡部にいたっては金もある。

ってちょっと待て。
これじゃ僻んでるみたいじゃないか!
いやいや、全然羨ましくなんて思ってないけど?
そのチート級のスペックの高さの人間なんて二次元の主人公、もしくはそのライバルみたいじゃねぇか羨ましいなんて欠片も思ってないけど!?


「なんや、やっぱ君変わっとるなぁ。」

『どうせあたしはその辺にいるモブですが。』


白石蔵ノ介は楽しそうに笑っているが、何がそんなに楽しいんだかさっぱりピーマンわけワカメだ。

てかコイツ普通に笑えんじゃん。

忍足の前では普通だけど、周り囲んでる女子と話してるときは明らか作り笑いだもんな。
あたしに対しては人を面白がるようなニヤけ面で腹立たしい顔しかしねぇし。



「ま、名前は四天宝寺で謙也以外の友達おらんのやし?俺が友達なったるよって。」

『余計なお世話だ。』

なんだってコイツは人の神経を逆撫でするんだろうか。


「俺のことは蔵之介って呼んでえぇで。」

『白石な。』

「なんでやねん!」

この流れ前にもあったよなww











「それで?」

『は?』


唐突に白石が聞いてくるが、何が「それで?」なのか。
主語つけろ、主語。


「いや、は?やなくて。俺名前に英語教えたったやん。お礼は?」

『アリガトウゴザイマシタ。』


棒読みだが言ってやった。
多分白石が言ってるのとは違うんだろうが、ここは気づかないふりだ。
嫌な予感しかしないし。


「どういたしまして。」


あれ?
違うってつっこまれるかと思ったけど、言葉だけでよかったのか?

なーんだ、よかっ「で?」...はい?



見上げるとニコニコ笑顔の白石。
こいつの笑顔なんて裏しか感じねぇわ。


『お礼とは。』


とりあえず聞くだけ聞いてみる。
一応世話になったとは思ってる。
あのままじゃ、いつまでたっても帰れなかったのは事実だし。
借りも作りたくないしな。


「せやなぁ。今テニス部マネージャーおらんねん。せやから手伝って。」








......マネージャーだと?





マネージャー:支配人。管理人。 芸能人について、外部との交渉などにあたる人。 運動部などで、チームの庶務や会計を担当する人。(明鏡国語辞典抜粋)

この場合は運動部からのくだりをさすんだろうけど。


なにそれ。

『最高にめんどくせぇ。』

「ハハ、言うと思ったわ。」


なら始めから言うな。


『てかそんなんやりたい人たくさんいるはずじゃん。お前の周り囲ってる子に言え。』

「それがそうもいかへんのはわかるやろ?」

『......。』


まぁわからなくはないが。

どうせ部員を贔屓したりとかそんなんだ。
氷帝でも跡部がよく言ってたしな。
おかげで何故かマネージャーの仕事させられたことあるし。
モテる部活の事情はどこも一緒ってか。
滅びろ。



「その点名前なら安心や思えるし。謙也とも仲えぇしな。」

『忍足と仲いいのは否定しないけど。』


だからってマネージャーかぁ...。

やだなぁ。
ますます周りに目ぇ付けられんじゃねぇか。
でも借りは作りたくねぇしなぁ。



「まぁマネージャーとして入部しろってわけやないし。とりあえずGW終わるまでやってくれへん?合宿とかあって人手ほしいし、選手には練習に専念してもらいたいねん。」

白石を見ると結構まじだ。
どうやら人手が足りないのはほんとみたいだな。
それに部長っていう立場だし、プレイヤーには練習してほしいってのも本音みたいだ。




でもなぁ。
部活っつったら朝も放課後もあんじゃん?



「今なら部活後におやつつくで?」
『やらせていただきます。』













ハッ!!
おやつという単語に条件反射で返事をしてしまった!



やっぱ今のなし!と言おうとしたが、時すでに遅し。



「ほなら早速行こか!」

『え、あ、ちょ、ま、待て待て待て待て!!』


グイッと手首を掴まれてそのまま連行。

提出するプリントにあたしのリュックはといえば、いつの間やら白石の手に。



行動はえぇな。
浪速のスピードスターもびっくりだわ。
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